一日一日を着実に積み重ねていく。その努力を出来る人が大きな何かを成し遂げる

企業TOPが語る「仕事とは?」 Vol.29

ファイザー株式会社 梅田一郎氏

学生時代に「どう生きるべきか」を深く考えたという梅田社長が変わったきっかけは?


■「定年までMR」と思っていた私の視界を、上司が開いてくれた

私が大学に入学したころは、まだ学園紛争の残っていた時代です。話が古すぎるようだけれど(笑)、教室の窓の外は竹竿を持ってみんなが走っていましたからね。公務員になる、大企業に就職するって言っただけで石を投げられるような空気の中「自分はどう生きるのか」については本当に深く考えた世代のように思います。私だけではなく、そういう話をできる仲間がたくさんいましたね。ずいぶん本も読みました。その答えは4年間では見つけられず、留年しアルバイトで学費をまかないながら大学生活を続けました。

5年生の時に自転車でアメリカを一周しました。ひとりでアメリカ領事館に行ってビザをもらい、ロサンゼルスからスタートして2カ月半、観光名所など目もくれず黙々と自転車を漕いで…途中危険な目にも遭いましたね。ゴールを果たした時、特別な達成感というのはなかったけれど「自分にも何かできるんじゃないか、やらねばならない時にはできるんじゃないか」という、裸の自分に対する自信みたいなものは得られた気がしました。

ファイザーに入社した当時、今に至る展開はまったく予想していませんでした。大きな目標を持っていたわけでもない。同級生と比べて入社が遅いですから、社内の留学制度なども自分には関係ないものと思っていましたし、「ずっとMRとして、定年まで働き続けるんだろうな」と、そんな気持ちでした。MRとして最初の1年は芽が出ず苦労しましたが、多忙でなかなかお会いできないドクターが時間を割いて勉強会に参加しているのを見たことが転機になり「ドクターはそこまでして勉強し、患者さんの治療にあたっておられる。そんなドクターたちの役に立てる仕事なんだ」とあらためて感じ、誇りややりがいを持てるようになりました。そして結果が徐々についてくるようになりました。医薬品にかかわる情報や知識を勉強し、とにかく担当エリアをくまなく回って…と、こつこつと信頼関係を積み重ねていく仕事を楽しんでいましたね。

そもそも、医薬品という事業にかかわる上では、「受け継ぐ」「積み重ねる」というスタンスが必須です。今開発を進めている薬剤だって、私たちが退職したはるか先になってやっと世の中に出てくるような、そんなサイクルの中で動いているわけです。自分が頑張ったから結果が出たというだけではなく、今までの先輩たちが積み重ねてきた実績の上に自分のプラスαがある。そういう考え方ができるということが大事だと思います。

私が今ここにいるのも、間違いなく当時の上司のおかげです。入社3年目のある日「君も勉強するように」と言われました。メンターとなる先輩(隣県の営業所にいた、MBA留学経験を持つ若い課長)を紹介してくれたりと、私の視野を広げるためのステップを組んでくれたんです。あの方と出会わなかったら、以後の人生はまったく別だったんじゃないかなとさえ思います。60歳までMR一筋でもそれはそれで良かったと思うけれど、日本だけではなくオーストラリアなど海外勤務をしたり、経営企画に携わったりと、幅広い経験ができたのは、その方のアドバイスのおかげなので。私は間違いなく恵まれていたと思っています。


■グローバル化の中、日本のメンバーが存在感を放っていくには

ファイザーでは、2〜3年前と比べても、若手がグローバルのメンバーと直接やりとりしてプロジェクトを進める場面が格段に多くなりました。当然英語は勉強しなくてはならないですから、留学や海外生活の経験がある人はラッキーかもしれないけれど、語学だけで仕事ができるわけではありません。これまでかかわってきた国内外の先輩方、そして今の若い人を見ても、チャンスをものにして活躍していく人というのはやはり「毎日毎日を積み重ねていく努力のできる人」だと感じますね。細く高い何かを作ろうとするのではなく、ベースをしっかり築くことで自分という土台の大きなピラミッドを積み上げていけるのです。実績や経験はもちろん、人間力という意味でも。例えば私は岡山エリアでMRのキャリアをスタートして、地域の中核病院も担当しましたし、瀬戸内海の小さな島の診療所を回り、ドクターと話し込むという経験をしてきました。医療そのものが、都市の大きな病院から地方までそれぞれの場所にあって、それぞれに医薬品が必要とされている。その一つひとつが大切なのだと肌で感じられたことは大きかったですね。大きな目標を描くのもいいですが、「自分にはどんな可能性があるのか」「来年はどこへ行けるだろう」と、先へ先へと気持ちを急がせなくてもいいと私は思います。あるレベルに至るまでにはしっかりと力をつけていくプロセスが必要。焦らずに、目の前のことに一生懸命努力する中に成長がありますし、その努力ができる人のことを、周りは必ず見ていますよ。

日本の若い人たちがグローバルで活躍してくれるのはうれしい。グローバルで活躍するというのは、海外で要職に就くということだけではなく、グローバルから日本を見たときに「非常に信頼のおける、頼れる組織だ、なぜならこうした人たちがいるからだ」と一目置かれることでもあると思うのです。リーダーもメンバーも、自分の言葉でコミュニケーションができて、自分たちの仕事の説明ができて、日本とグローバルの違いとその背景、日本人の感覚、大切にしているものをしっかりと説明できる。それができるようになればその延長線上に、より多くの人が他国のマーケットで期待されて働くということが自然と起こっていくでしょう。

「かわいい子には旅をさせろ」と言うけれど、「本当はあれは駄目なんだよ」というイギリスの数学者バートランド・ラッセルの言葉があります。将来、大きなことをやるためには、小さい時からじっくりと取り組める、我慢のできる人間でないと。大きなことの前には必ず長い我慢の時間が必要なのだと。小さなころからあちこち楽しいところや面白いことを見て歩くよりも、毎日同じ砂場で、同じ近所の仲間たちと、何か道具をこしらえ、次の遊びを工夫する、そういう中で自分自身は作られていくんだよと言っている。こんな言葉が私はすごく好きですね。