政府が進める「原子力規制庁」法案のトリック――塩崎議員による問題指摘と対案解説

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「原子力規制」に関する議論が、5月の連休明けに早速加熱すると見られている。
政府は「原子力規制庁」法案を出し4月1日にスタートする予定だったが野党が反対し自民・公明からは「原子力規制委員会」案が出されることとなった。

福島の原発事故が計らずも明らかにしたことのひとつに、これまでの原子力の規制機関、具体的には「原子力安全・保安院」「原子力安全委員会」による規制のやり方には問題があったということがある。

そこで「原子力規制庁」をつくろうという案が政府から出されているのだが、しかしそれでは問題の解決にならないというのが野党側の意見。確かに一見、規制をおこなう「原子力規制庁」が独立したように思えるが、そこにはトリックが隠されているようだ。それではどうしたらよいのか。自民党の塩崎恭久議員に話をうかがった。(ききて:硬派経済ジャーナリスト磯山友幸氏、協力:東京プレスクラブ)

●資料
インタビューで使われた原子力規制に関する解説図

●動画版
http://youtu.be/ztWnVKHpJw4

●テキスト版

磯山:政府が原子力規制庁法案を出してまして本来は4月1日にスタートするはずだったのですが野党がこれでは不十分だということで対案を出す、ということでした。そもそも政府案と野党案とはどう違うのですか?

塩崎:今までの原子力規制組織の問題点はなんだったかというと三つありました。一つは原子力の推進役と規制をする側が同じ組織の中にあって利益相反状態、やってはいけないことまでやってしまう。これが原子力村といわれてしまった一つの原因です。安全に徹しなければならない人が推進のことを配慮してやってしまう。これが最初の大問題です。

政府案

磯山:同じ経産省の中に産業所管部局と資源エネルギー庁、原子力安全・保安院がある。

塩崎:エネルギー庁っていうのは推進役です。それに対していままで原子力安全保安院というのがありました。これは規制側。ところがこれが同じ組織の中にありますからおおよそエネ庁の論理が勝ってしまって安全性が確保出来なかった。いいかげんなことをやってしまった。というのが問題です。

磯山:ということは産業所管部局と資源エネルギー庁、原子力保安院が一体となって安全を守る側と原発を推進する側と一体だったという話ですが具体的に推進側が主導して安全をおろそかにしたいった事例はあるのでしょうか?

塩崎:防災計画をつくりましょうとIAEAが言ってきたことがありました。それが2005〜06年くらいです。その時にJCOの事故というのがちょっと前にあってやっと熱りが冷めた所に「寝た子を起こすようなことではないか? この防災計画は!」という判断がエネ庁のほうにあったんだと思います。結果どうなったかというと保安院そのものが「防災計画はつくらない」ということを決めてしまいました。たぶんこれは「寝た子を起こすことになるんではないか」ということを推進側のエネ庁が判断をして規制側の保安院に命じた。推進側と規制側が一体となってしまって防災計画を作らなかったのではないかということです。今回のような事故が起きた時のことを決めておくということがそこで出来なかった。ですから推進役と規制役は一緒にしてはいけない。

磯山:政府案ですがどういう感じになっていてどこに問題があるか?
政府案
自民公明案
塩崎:政府案はいままで経産省の下に保安院がぶら下がっていたのを環境省にぶら下げる規制庁という組織にしましょう。というふうにしています。一見推進役と規制役が独立したかのように見えますが実はこの長官というのは人事は全部環境省がやります、この長官人事は閣議で決まります。ということは総理を始めとした内閣が「この人がいいな」という人でなければならない。あるいはなったあとに罷免権が残ります。人事権は持ったままです。そうするとここが原発を再可動させるという安全判断をしたのに「安全ではないです」という判断を仮に行なったとしたら場合によっては経産省側が「手加減してはやく可動させてください」といって「そんなこと出来ません」といったら「わかりました、あなたには次からお願いしません」というので三ヶ月後に罷免をするようなことをほのめかしたら「わかりました、工夫して上手にやります」というようなことになってしまいます。そうすると安全に徹しない組織になってしまう。

磯山:今回、野党がまとまって、対案を出されたということですが、中身はどういう感じなんでしょうか?

塩崎:ここにあるように我々は、すべての役所から独立しているという「いわゆる」三条委員会(公正取引委員会がありますが)そういう自まかないで権限もある、予算も自分で決める、人事も自分でやるという。
そういうことによって、政治からの影響や他の行政からの影響を完全に排除して、そして自ら政府のどこにでも勧告ができるようにする。ですから環境省も除染とか放射性瓦礫の処理をやりますから、その安全基準をつくるのは、当然原子力規制委員会であり、ここが環境省に向かって勧告を出すことができるわけです。

磯山:細野大臣が「危機が起きた時こそ、政治家が出ていかなくてどうするんだ」と国会答弁で仰ったんですが、それに対して塩崎さんは「それこそが菅直人リスクなんだ」と。ある意味、(細野大臣の発言は)国民にわかりやすい言い方なんですが、それは、なんでだめなんでしょうか?
緊急時の対応
塩崎:我々が言っているのは、原子炉の扱いをどうするか、つまり問題が起きてメルトダウンだと。これを、どうやって抑えこんでいくのかという専門技術的なことについては、政治家が訳もわからないのに「右に行け左に行け」ということを言っちゃいけませんと言っているので。例えばですね、瀕死の重傷の患者さんを診ようとしているお医者さんに「あんたちょっとどけ」と。総理が「命を預っている俺が診断する」と言ったら家族は皆「やめてください」と言うでしょう? やはりお医者さんに見てほしいと。そのところだけを言っているのであって、後は、この専門組織が判断して「これは放水しないといけない」という時は、総理にお願いして「やって下さい」と。そうしたら総理は「よしわかった」というんで、自衛隊に放水せよと命令をする。
非常に緊密な連携をしないといけないということは間違い無いんですけれど。だからといって、素人が専門的なところの判断をやるということは、ありえないということだと思うんです。

磯山:その意味では、前回の例で言うと菅首相は本来やるべきでないことまで、踏み込んでやってしまった?

塩崎:「ベントをやれ」「海水注入をやめろ」と言ったとのことですが、これは吉田所長が無視したという話です。これはいい意味で良かったんですけれど。命令する権限が大臣にあるのに対して、総理が命令しろといっている訳ですから。それともう一つは、例えば、浜岡原発を止めるとか、そういうものは、本部長が言うことでしたら無視できないわけですよ、今の法律体系では。で、政府案はまったく同じ法律体系のままでやろうとしているから、相変わらず「菅直人リスクはあります」ということなんですね。

(以上)
塩崎恭久議員に話をうかがった

インタビューフルバージョン:【原子力規制庁】塩崎恭久議員、政府案に対する野党対案の説明