圧倒的な情報量と更新頻度、筆者の鋭い考察で人気を博す野球ブログ=「野球の記録で話したい」を運営するライター・広尾晃さんインタビュー。最終回となる第3回は、我々の仕事論にも通じるインプット&アウトプット術から、他の分野で新たなブログも立ち上げたいとする広尾さんの次なる挑戦、そして「野球の記録で話したい」の今後について話を伺いました。

南海グリーンの青少年時代|広尾晃さんインタビューvol.1
「野球の記録」へのこだわり|広尾晃さんインタビューvol.2

――広尾さんのお話を聞いていると、「これもやりたい」「あれも書きたい」でも、「野球のネタに困ったことはない」とも。一体どうなっているのですか?

一般常識レベルで知らないことも多いですよ。コピーライターになった時に、ファッション系のものを書かされましたけど、一週間でクビになりましたからね。ベクトルがファッション系の人と違いすぎるんですよ。靴のことについて調べろと言われて、ローファーという靴の歴史や、各パーツの用語などを調べまくった。相手が知りたかったのは、どんな服に合うかとか、トレンドとかだったんですが(笑い)。

――それにしても、アウトプットの量や精度が尋常ではありません

一つの対象について、穴の掘り方が分かってるんでしょうね。コピーライターって知らないって言えない商売じゃないですか。(最初は)知ってるふりをして、次の日までに猛烈に調べて、追いついておくと。そういう情報の取り方は分かってますよね。

――インプットについては、極意みたいなものがあるのでしょうか?

本は買い込みますけど、真剣に読む本と、見出しだけさらう本がありますし、How to本だったら目次を見るだけで一瞬で何を書いてるのか分かります。その嗅ぎわけが大事ですね。みなさんやっておられることでしょうが。

――仕事論に通じると言いますか、特に万人に時間は共通なので、広尾さんのインプット&アウトプット術というのは大変勉強になります。

それでも時間は足らんと思いますね。朝だいたい5時くらいに起きるんですよ。それから飯食って、午前中の時間が一番頭がフレッシュなんですけど、ほとんど野球にとられますね。残念ながら。仕事はそこから後に濁った頭でやるので、精度はだいぶ落ちてるなと思います。クライアントさんに読まれると困りますが(笑)。

――「野球の記録で話したい」というブログをスタートされたのは?

2009年の一月ですね。その前にIZAで書いていた時には何の反応なかったんですが、スポーツナビに書いたらメチャクチャ反応がよくて、WBCが始まる頃まで続けていたら、何もしないでも4万アクセスくらいきて、これはできるなって思って。それから4年目です。それほど昔ではありません。

一本目は時事ネタ。今日書かないと鮮度が落ちるもの。明日読んでも仕方ないものを書きます。それからシリーズものを書く、そのパターンですね。今、クラシックSTATS鑑賞っていうシリーズをやっています。次は南海で書くんですが、その仕込みをしてます。その間に、MLB、NPBとプレビューとレビューを書いてる。自分で勝手に整理をつけている。

――livedoorブログでも奨学金受給対象に選ばれて、内容で周囲を振り向かせたという。

書き過ぎですよね(苦笑)。

Baseball Journalのほうは一本だけ取り上げてくれればいいのになって思いますよね。朝一のだけとかね。僕のだけで埋まるときがあるので、あれが心苦しいなって思います。

――実際、Baseball Journalに参加されて変わったことはありますか?

昔、スポーツナビで書いてた時は、荒らしが多かった。ブログっていうのは、一つのコミュニティであって、サイトによって性格が色々違うと思うんですけど、とにかくネガティブな人が凄い沢山いて、攻撃を受けたんです。

私のサイトを攻撃するだけのサイトが3〜4つできたんですよ。そこで、WordPressにブログを移してからは、IPアドレスで攻撃してくる人をブロックしたりもしたんですけどね。Baseball Journalに載せて頂いてからは、そういう人がいなくなった。いいお客さんが集まってる感じがありますね。

4年くらい前から、ずっとコメントなどを入れて頂いている方がいる。その人たちがうまい具合にコメントの中でやり取りしてくれて、続いていくので、あまり私が返さなくてもよくなった(笑)。コミュニティができてきましたね。

そういうお客さんの中に、蛭間(豊章記者/スポーツ報知)さんも入ってこられました。これには恐縮しました。そのほかにも戦前の野球をずっと調べておられる方もおられる。それに、的確なコメントを返して下さるお客さんが、本当にたくさんおられる。これは宝物です。そういう人たちの信頼を裏切らないことが一番でね。ハッキリ言えば、顔は見えていないけど、心の中でつながっている人が、1000人くらいいますね。

Baseball Journalが始まってから、そういう人がさらに増えて、聴衆がいるというのが分かるようになった。当然アクセスも増えましたしね。

どうしても言っておかなければならないのですが、私の場合、一日に一つくらい間違いをします。頭が粗雑なので。イージーミスもいれば、決定的な間違いもある。それを指摘して頂く方が私にとっては一番有難い。ここを強調しておきたいですね。本来あってはならない間違いですが、皆さんのご理解とご厚意で、容認していただいています。

間違いをご指摘頂いたコメントは絶対に残しますし、謝っている私のコメントも残す。開き直るわけじゃないけど、人間は間違うもんやと。だから、それを承知で入ってきてくれる方が有難いですね。これが印刷物だったらえらいことですよね。
ある程度リターンもほしいので、アドセンスやアフィリエイトも貼っていますけど、誘導するようなことは一切しない。信頼を裏切ることはできないという意識は常に持っています

――我々は社内とかでも「ユーザ」という言い方を多用しますが、広尾さんは必ず「お客さん」と言われる。その意識の高さは感じます。

今、うちのブログは平均で1日1万くらいアクセスありますけど、一人ひとりがお客さんだと思ってますからね。お客さんは私の年齢とかも分かってると思いますし、いい大人が悪いことはできない。ブログ奨学金(受賞者の集まり)に行かせて貰っても、ほとんどが80年代生まれの人ばかり。年齢的には高いほうですが、意識も少し違うかもしれません。

あと、英語がネイティブではないということだけは、私にとっては恥ずかしいというか、もちろん、英語の記事や本はたくさん買い込んでいますが、ニュアンスが分かるレベルまでは英語ができないので、そこの部分は仕方ないと思ってやってますね。そういうところを突かれることも多いですが。

MLBについて書くときに、よく「ニュアンスが違う」ということも言われたりもします。私の弱点ではあるけども。これも仕方がないですから。一般の教育を受けたレベルくらいしかないですからね。
でも、逆に日本的な目で見ることに徹しようと思うんですよ。例えば、MLBでは日本的な目で見るとおかしなトレードであるでしょう。ヤンキースとマリナーズでヘスス・モンテロっていう選手が去年18試合しか出ていないのに、エース級にのし上がったマイケル・ピネダとトレードされました。あれをおかしいって書いた時に、「メジャーでは常識だ」って書いてくる人がいた。でも、日本人的にはおかしい。ですから、私はメジャー通ではなくて、あくまでも野球の記録を見た上でのことで判断しようと。立ち位置は底だと思っています、

――今後……、ひょっとしたら野球というジャンルだけではないかもしれませんが、広尾さんはどのようにネットで情報を発信していきたいと考えますか?

野球はずっと続けていきます。多分このペースでやるでしょう。僕の中では慣れた、身体に染みついたペースですから。
これ以外の分野でブログを立ち上げる準備をしていますから。そっちと両方やることで、今来て頂いているお客さんの多くは、野球について深い造詣をお持ちですが、それ以外の部分でもいい大人なんです。色んなことに見識を持っていらっしゃると思います。その方に向けて、他のことを書いてみようという考えがあります。

私は59年生まれなので、59っていう名前のサイトを6月には立ち上げようと思います。それは、相撲や落語、あと私は食べ物についてもずっと色々やってきているので、フードと時事ネタと。同じような密度ではできないですけど、野球と同じような熱意でやって、これらを補完するようなカタチにしようかなと。

――ちなみに「野球の記録で話したい」がこれだけ広がっている中で、実際、野球に関するお仕事の話とかっていうのは来たりしないのですか?

あればうれしいですが、今のところないですね。野球については鬼の様に詳しい人が一杯いるでしょ。一生涯をかけている人もたくさんいる。そして周辺にはびっしりと野球ジャーナリズムが取り巻いています。門外漢のライターへのニーズはないのかもしれませんね。

記録を追いながら野球を見る楽しさとか、解説者や放送の批評とか、昔のスタジアムの風景とか、書いてみたい分野はあるんですが。
それとは別に、自分では本にしたいとは思っています。クラシックSTATS鑑賞は本にする価値はあるかなと。間違いのチェックは必要ですが(笑)。選手やチームの歴史が一冊で分かるようなものは作っていきたい。で、そのときに皆さん方に頂いたコメントも載せたい。そんな本ができれば最高ですね。共有できる人たちはいると思います。

これからも同じペースで情報を発信します。いろいろ間違いながら、皆さんに教えていただきながら、とにかく「野球の記録で話し」続けたいですね。