自分のアイデアと戦略で世の中に影響を与える喜び

ビジネスパーソン研究FILE Vol.166

プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン 長祐さん

P&Gで商品開発の経験を経て、マーケティング職へと転身したブランドマネージャー


■「自分の意見を強く持つ」。開発プロジェクトの中心として、周囲を巻き込む仕事スタイルを確立

大学院で遺伝子系工学の研究をしていた長さん。「研究で狭い分野だけを追究するのではなく、それを広くビジネスに生かしていくような仕事がしたい」と考えて現社に入社を決めた。

開発職として採用された長さんは、2週間の研修の後ベビーケア研究開発本部に配属され、ドイツの開発拠点と一緒におむつ商品の開発プロジェクトを手がけることに。最初に担当したのは、フィリピン、タイなどのアジア市場に向けた商品開発だったという。
「まずは乳児のお母さんに向け、既存の商品の使用感に対する印象調査を行いました。タイやフィリピンでの現地調査も行いましたね。さらに商品の性能テストを行い、股の部分の幅を狭くする、吸収体の位置をずらすなどの改善点を模索した後、すべての調査結果を分析し、どう改良するかを考えていきました」

提案にOKが出たら、それに合わせて仕様を変更した設計図を作成し、工場の担当者と製品のスペックについて打ち合わせをした後、ドイツの開発拠点で試作品をつくる。そこから再び乳児の母親数百人に向けた印象調査を行った後、製品化への承認をもらうという流れだ。しかし、長さんの提案にはなかなかOKが出なかったという。
「『社会人1年目の僕の力が果たして通用するのだろうか』という不安があったためか、上司や先輩、調査部の担当者などの意見に振り回されるばかりでした。僕が考えた提案に対し、上司が『それは違う』と言うので、意見を反映した提案にしてみれば、今度はプロジェクトチームのメンバーから『それは違うんじゃない?』という意見が出る。一体どうすればいいんだと頭を抱えていました」

プロジェクトは遅々として進まず、なぜOKが出ないのかと悩み続ける日々。焦りと挫折感に打ちのめされる長さんだったが、上司からの厳しいひと言で目が覚めたという。
「反対意見を唱えた上司から『お前、このままじゃダメだ』と言われたんです。正直なところ、最初は『上司の意見を実現しようとしているのになぜダメなんだ!?』と思いました。けれど、仕事のできる先輩たちを見ていたら、先輩たちは自分の意見を主張し、人を巻き込んでガンガン進んでいると気づいたんです。それに比べて、僕は人の評価を気にして臆病になっているだけ。そもそも自分の好きなことをやりたいと考えて選んだ仕事なのに、これじゃ本末転倒だと。評価が下がったっていい。クビになったっていい。誰よりもこのプロジェクトに時間を使っているのは僕のはずだから、自分が思うままに突き進んでやる! そう決意したんです」

長さんは、目的達成に向かう方法を考えては紙に書き起こし、論理的に整理してたたき台となる提案をつくった。常に自分の意見を強く持つように意識し、反対意見があっても説得して巻き込むよう、努力を続けたという。周囲の意見に耳を傾けることも必要だと考えてはいたが、決して言いなりにはならず、自分の考えに盛り込む形で提案をブラッシュアップしていった。
「新入社員だろうと何だろうと関係ない。このプロジェクトを進める中心は自分しかいない。そう意識が変化してから、いろいろなことがうまく回り始めるようになりました。提案にGOが出た後には、試作品の作成や工場の生産ラインにおける製造工程の模索、品質管理基準の設定などのステップがあり、そこには困難や衝突もありましたが、自分なりに前に進んでいく手応えを感じていました。ようやく商品ができ上がった時、努力の結晶がカタチになったと感じ、『成し遂げたぞ!』という何とも言えない達成感を得ることができましたね。現地の店頭でおむつを手に取るお客さまの姿を見た瞬間の、『おおーーっ!!』と叫びたくなるような喜びは今でも忘れられません」

その後も研究開発に打ち込み続けた長さんだったが、30歳を目前にした入社5年目で新たな転機を迎えることに。
「開発の仕事の中で、商品を売るための会議にも参加する機会も多く、ビジネス全体を動かすことで自分自身を試したいという気持ちがどんどん大きくなっていきました。30歳になる直前、キャリアと将来についてあらためて見つめ直し、『40歳になった時、何をやっていたいだろうか』と考えました。そこでたどり着いた答えは、『事業全体を回すようなポジションで自分のアイデアや戦略を試すこと』だったんです。それじゃあ、40歳で事業部長になるために、今やるべきこと、5年後にやるべきことは何なのか。そう考えると、『マーケティング職しかない!』と思いました」

長さんは、思い立ったら即実行で社内公募のマーケティング職に挑戦。無事、合格し、ベビーケア担当のマーケティング本部に異動することに。ここから長さんの新たな挑戦が始まった。


■マーケティング職で経験を積んで6年目、ついにビジネスを経営するブランドマネージャーに!

念願かなってマーケティング職となった長さんだが、「今まで開発職だった僕は、新入社員と同じスタートラインに立っている」と考え、ひたすら勉強を重ねていった。
「最初の仕事は、おむつ商品における秋期マーケティングプラン。テレビCMや小売店の店頭プロモーションの仕掛けを考えることになりました。数千万円単位の予算を任され、すべてを自分で考えて提案するスタイルのため、本当の意味で自分の力が試されると実感。そこで、ビジネス全体の背景をしっかり理解し、その戦略における目的や意義を把握したうえでプランを立てるよう意識。上司にガンガン質問し、一つひとつ学びながら、物ごとの裏の裏まで深く考えていくことを心がけました」

長さんは商品のイメージキャラクターが人気を集めていることに着目し、店頭キャンペーンの景品に生かすことを考えた。商品に関連するもので、なおかつ愛着が湧いて使い続けたくなるものは何かを考え、赤ちゃんのタオルガウンをつくることに。また、キャンペーンを展開する場についても、大型スーパーだけでなく、玩具店やベビー用品店なども視野に入れ、それぞれのプロモーションに参加いただく小売店さまを最大化するように、キャンペーンの仕組み・店頭マテリアルをニーズに合わせてカスタマイズした。各店への販促金をいくら出すかなども考え、小売店側に、より販促に積極的になってもらう方法を考えた。
「当初はモノが売れる仕組みがわからずに苦労しましたね。売り上げを稼ぎ出すためには販促の予算が必要ですが、その予算が何をもとに構成され、それに対してどんなプランを考えるのか、CMや店頭プロモーションをどう連携させ、小売店にどう売ってもらうのかまで考えねばならない。予算管理や需要の予測まで、すべてを手がけながらマーケティングの仕組みを学んでいくうちに、商品がどう届けられ、どんなふうに売られるものなのかを理解できるようになった。全体の流れが初めてわかり、すごく面白かったです! 」

その後、長さんはシェーバーなどを手がけるジレット担当マーケティング本部に異動し、自分流の仕事の方法論を確立する。
「それまでずっとおむつ商品に携わってきましたが、ジレットはターゲットも違えば、取り扱う小売店も違う、まったく別のビジネスモデル。まだうちの商品を扱っていないコンビニエンスストアの大手チェーンに狙いを定め、営業担当と一緒に販促の提案に行きましたが、実際に営業がどんな仕事をして売り場を確保しているのかを学ぶことができましたね。お客さまに商品を届ける戦略を実現するには、予算をもらうために周囲を説得することから始まり、チームのメンバーが一丸となって考え方を共有し、さらに営業担当者がそれを小売店に伝えるというややこしい伝言ゲームがあるもの。その先にいる消費者にメッセージを伝えるためには、シンプルで強いプランがベストだという結論に達しました。自分の中で、どのビジネスにも共通する勝ちパターンを確立できた時期だと感じます」

マーケティング職を経験して5年目。長さんはシンガポールのジレットブランドのアジア市場担当マーケティング本部に異動し、日本と韓国におけるジレットの戦略を担当することに。
「僕が唯一の日本人だったので、『日本のことを本当に理解し、日本におけるビジネスを伸ばしていけるのは自分しかいない』という責任の重さを感じましたね。文化も背景も違うさまざまな国籍の人々に対し、日本のニーズをきっちりと打ち出し、ひとつの目標に向けて動かさなくてはならない。そのためには、誰もがひき付けられる強いビジョンを打ち出すことが必要なんです。例えば、単に『売り上げを伸ばす』より、『世界一のブランドにする』というビジョンの方が推進力は大きい。いかに鋭いビジョンを持てるかが重要だということを学びました」

海外で1年の経験を積んだ後、長さんは再び日本に戻り、フェミニンケア担当マーケティングオペレーションズチームにてブランドマネージャーに任命される。ジレットの女性向け製品や生理用品ブランドのウィスパーなどを手がけることになったという。
「すべてのプロジェクトを統括し、ブランド全体の経営をしていくというポジションとなり、『ついにここまで来たか!』と。自分の思い描いたキャリアステップにギリギリセーフで間に合ったと感じましたね。部下を持つのは初めての経験だったので、それぞれにプロジェクトを任せながら全体を走らせるための方法を模索していきました」

2011年、長さんはファブリック&ホームケアのブランドマネージャーとなる。レノア(柔軟剤)やアリエール(衣料用洗剤)、ジョイ(台所用洗剤)、ファブリーズ(エアケア)など、多岐にわたる商品を手がける部署だ。
「今まで学んできたことを整理し、この部署での仕事の目的や意義、信念を定義しようと考え、それを部下に話すことでビジョンを共有することにしました。さまざまな分野のブランドを手がける部署なので、それらを組み合わせて展開する戦略として5つの柱を立て、それぞれの部下に任せました。それから1年がたつ現在、その結果が出てきていると感じます。自分の戦略とアイデアで世の中に影響を与えていく大きなやりがいがありますし、組織づくりの面白さもわかってきましたね」

そんな長さんの目標は「普遍的なビジネスリーダーになること」だという。
「チャンスを何度でも与えてくれる会社なので、経験を積んで勉強したことを次に生かして実践できる面白さがあります。目指しているのは、どんなビジネスにおいても結果を出せる人間。不調のビジネスを立て直すことも、好調なビジネスをさらに伸ばすことも、どちらもできるビジネスリーダーを目指していきます」