近年、高度経済成長による発展にもだんだんと陰りが見え始めた中国。かつて安い労働力を求めて殺到した海外企業も少しずつ撤退を始めています。そんな、中国に進出した企業をひたすら悩ませ続けたのが、品質の改悪問題でした。

 最近も下水溝の廃油から抽出した食用油を販売していたグループが大規模摘発されるなど、この種の問題は後を絶ちません。このグループは1年間で約1億3000万円余りを稼いでいたというから驚きです。

 「中国人はなぜ品質改悪や偽装をするのか?」――これは、同じ問題が起きるたびに湧き出る率直な疑問ですが、中国在住で海外企業と現地の工場との仲介業を務める米国人ビジネスマンのポール・ミドラー氏は、著書『だまされて。』(東洋経済新報社)の中で、20年以上中国人と仕事をしてきた豊富な経験を絡めながら、その答えを解明しています。

 単純に「給料が安いから手抜きをする」と考えがちですが、実は、中国の工場側が進出企業に仕掛ける「チャイナ・ゲーム」によるものだとポール氏。

 企業と工場の発受注が成立した瞬間、企業側は「チャイナ・ゲーム」にハマっているというのです。取引の条件が決まるや、工場側は儲けを出すためのごまかしを始めます。著者の経験上だけでも、ボディー・シャンプーの内容量を少なく注入する、容器の厚さを薄くする、成分や香料を変更する......など目を疑うような偽装や改悪が続々と登場します。

 著者は、「品質は時間とともに改善されるのではなく、時間とともにごまかしの策略を考え出してますます酷くなる」と綴っています。

 さらに、企業側を躊躇させるのが、品質改悪を理由にその工場との取引を停止した際のリスク。競合他社との競争、製品のデータや工程の流出、模造品の氾濫......という数々の不安にかられ、結局その工場から離れることができなくなると言います。

 だからこそ、中国での自社製品の製造工程を知りたいと言う反面、深くは追求しないという矛盾が生じます。品質改善の要求は、価格上昇を意味するからです。また、企業側が工場の出荷を拒み製品が余ったとしても、他国の市場に回したり国内で売りさばいたりという救済案がいくらでもあるため、工場側に経済的ダメージはないのだそうです。

 どんなグローバル企業よりも、圧倒的に工場のほうが優位――これこそが、ポール氏の言う問題の根源である「チャイナ・ゲーム」であり、この構図を暴いたことが、英『エコノミスト』や米『フォーブス』をはじめとする一流経済誌で絶賛されました。

 ただ、本書はお堅いビジネス書というより、著者の中国文化への深い造詣と軽快な語り口が織りなす、臨場感たっぷりの小説のようでもあります。あの手この手でごまかしをはたらく工場主の「陳姉さん」にほんろうされるアメリカの企業マン。読者は大笑いし、怒りがこみ上げ、時にはあまりの理不尽さに泣けてくるはず。それでもどこか憎めない、個性豊かな中国人たちとのやりとりは、「まるで中国囲碁とアメリカンフットボールの戦略ミスマッチ」のような文化の違いをまざまざと見せつけてくれます。

 現在、中国と仕事をしている人、そして、これから中国と仕事を始める人は、この"チャイナ・ゲーム"に巻き込まれたときのために、同書を読むことをおすすめします。




『中国製の改悪品が絶えない理由は、地元工場が仕掛ける「チャイナ・ゲーム」』
 著者:
 出版社:東洋経済新報社
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