社会って、甘いっちゃ甘いよね

仕事とは? Vol.71

ミュージシャン YO-KING

「なるべく働きたくなかった」というYO-KING氏が語る、社会人の心構えとは?


■「乗りかかった船」は自分の思いもよらないところまで連れて行ってくれる

なるべく働きたくなかったんですよ。一生遊んで暮らしたかった。だから、大学4年生でデビューが決まった時は「渡りに船」という感じでした。デビューといっても、1枚シングルを出すというだけの話だったんですけどね。そのシングルがそこそこ売れてアルバムを出すことになり、あれよあれよと20年あまり。一歩先を見ているうちに、いつの間にか10歩進んでいたという感じです。

苦労話? ないですねえ。デビュー後しばらくは週休4日くらいで、暇は暇でしたけどね。曲は作り続けていたし、何かしらやっていたので、「この先、大丈夫かな」みたいなのはなかったです。レコード会社から契約を切られてもおかしくない状況だったけど、景気のいい時代だったから長い目で見てもらえたし、恵まれていたと思いますよ。

ミュージシャンは気楽な稼業です。なんだか、ユルすぎて世間の皆さんに申し訳ないって気持ちがちょっとあるんですけど、本当だから仕方ない。ミュージシャンなら誰しもそう思っているけど、身も蓋(ふた)もないから言わないだけなんですよ。僕は愛があるから「ラク」って言っちゃう。逆にね、つらいことを人に言っているようじゃダメです。言霊というのがありますからね。意地でも「簡単ですよ」「ラクですよ」と言っている方がいいことが起きるんです。

ぬるま湯人生を送ってきましたからね、僕は。正直、就職して会社で働くということがリアルにはわかりません。ただ、就職や仕事で悩み過ぎている人を見ると「自意識を少し捨てれば、気持ちがラクになるのに」と声をかけたくなることがあります。「やりたい仕事が見つからない」「この職場は俺に合わない」と悩む人は多いけど、それは逆だと思うんですよ。自分が仕事や職場に合わせていかないと。

その点、自慢じゃないけど、僕に自意識はないです。そもそもデビューしたのも、音楽サークルの後輩だった桜井に誘われて即席のユニットを組み、バラエティ番組の「勝ち抜きフォーク合戦」に出たのがきっかけですから。サークルでやっていたのはロックバンドだったし、ミュージシャンを目指してレコード会社にデモテープを送っていたわけでもありませんでした。

今だって流されるまま(笑)。例えばアルバムの企画を考えるときも、もちろん意見は言うけど、誰かがアイデアを出してくれたら、たいてい「イエス! いいねえ。面白そうだねえ」って返事しますね。まあ、その中でもひと晩考えて「やっぱ、やめよう」ということも100個のうち2、3個はありますよ。でも、97個はやっちゃう。

自分の意見にこだわらないというのが、僕のこだわりなんです。「乗りかかった船」みたいなことって、偶然のようでどこか必然性がある気がするんですよ。その「流れ」に乗った方が自分の思いもよらないところまでその船は連れて行ってくれる。だからね、ジタバタしなくていいんですよ。ただ「流れ」はちゃんと受け入れるというのが大切なんじゃないかな。真心ブラザーズだって、僕が桜井からの誘いを断っていたら、誕生してないわけですから。


■社会人の誓いとして、楽しく生きるという覚悟を持つ

この間、ライブでラブソングを歌っていてふと思ったんですけど、われながらすごい歌手に成長したなと(笑)。10年くらい前はラブソングを真っすぐにうまく歌うみたいなことに照れがあって、苦手だったんです。でも、うまく歌うのって気持ちいいんだっていうことが最近になってようやくわかった。相当遅いんですけど(笑)。

歌って声があったり、声のないところがあったりして、無音も歌の一部分じゃないですか。「あー」って歌うと、「あー」から無音までの間の音。歌がうまい人はそこがうまいんですよ。自分にしかわからない細かいところなんですけどね。でも、「うまく歌うのって気持ちいいな」と思うだけで、ライブツアーがより楽しくなったりする。そういう「遊び」みたいなものを仕事に取り入れていくのは大事な気がします。それが結果的にいい仕事につながるというか。

何でも遊びにしちゃうのは、僕、昔から得意なんです。「時間を有効に使おう」という目標みたいなことも、「時間を有効に使う遊び」ってメモに書く。そうすると全然違うんですよ。心に余裕が生まれる。自分で自分の心をいい意味でだましていく。で、機嫌よく仕事をするというのは社会人のたしなみです。あとはあいさつをするとか、時間を守るとか、ちゃんと連絡するとか基本的なルールを守っていれば、間違いないんじゃないですか。こう見えても、僕はそのあたり抜かりないですよ。締め切りは絶対に守るし。

まあ、キャリアプランとか計画性はありませんでしたけどね。「フォークデュオ」としてデビューしたけど、ロックもソウルもファンクも何でもありで作りたい曲を作ってきたし、真心ブラザーズとしてやったり、ソロでやったり、勝手気ままに。それでも愛されちゃうというのは、僕もスゴイけど(笑)そんな僕を応援してくれる社会ってスゴイですよ。

社会って厳しいって言うけど、甘いっちゃ甘いよね。甘くて楽しい。だから、社会を怖がらなくていいってことを僕は皆さんに言いたいんです。ただ、楽しい社会人になるにはそれなりの心構えってものがあります。まず、夢はなくてもいいけど、覇気がないのはよくないと思う。それから、覚悟ね。卒業して社会人として楽しく生きるという覚悟。覚悟がないと、仕事をしていてもなんかつらい方ばかりにフォーカスが合っちゃうからね。社会人の誓いとして、楽しく生きる覚悟を持つ。ブレずに。で、折にふれてその誓いを思い返せばいいんじゃない? うん。