実はスベりまくっていた超大物コメディアン

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 日本人は必要以上に失敗を恐れるとよくいわれる。これは日本を代表する経営者、本田宗一郎や元サッカー男子日本代表監督のイビチャ・オシム氏も指摘している。

 しかし、失敗は、個人においても、組織においても、成長のために必要不可欠なものといっても過言ではない。どうして失敗したのか、その分析を行って次に生かす。そのサイクルが出来ていれば、失敗の事例が多ければ多いほど、大きな成功を生むことができる個人や企業に成長することになる。とはいっても、失敗によっては致命傷になるものもあるには間違いない。では、成功を収めている人々はどのように失敗を重ねてきたのだろうか?
 『小さく賭けろ!』(ピーター・シムズ/著、滑川海彦、高橋信夫/訳、日経BP社/刊)は、グーグルやピクサー、アマゾン、グラミン銀行、大物コメディアンなどの成功企業や人物たちを取り上げ、彼らがどのように「失敗」を受け止め、積み重ねて、イノベーションを成功させてきたかをまとめている。
 ここでは、本書から彼らの独特な「失敗の仕方」を紹介しよう。

■アメリカトップのコメディアンが小さな街で繰り返す“失敗”
 数々の映画に出演、映画監督としても活躍するコメディアン、クリス・ロック。
アメリカでもっとも人気のあるコメディアンの一人である彼は、世界ツアーに出る前に、小さな学園都市ニューブラウンズウィックであることをする。
 それは、小さなコメディー・クラブに40回から50回出演するということだ。
 ロックはアイデアを書き散らした黄色いリーガルパッドを手に、50人ほどの観客の前にあらわれる。もちろん出演予告なんて一切ない。観客がロックに気づくと、にわかに期待が高まる。アメリカでも最高峰のコメディアンだ、面白くないはずがない――と思われるが、ロックは普段のパフォーマンスではなく、観客と気楽に会話をするような調子で始める。45分のショーの間で繰り出されるジョークのほとんどはスベる。話の脈絡を自分でも見失い、ノートを読み返すこともある。ジョークにスベるロックを笑う観客もいる。ロック自身がつまらないと思っていたジョークが小屋中を爆笑の渦に巻き込むことだってある。
 このとき、ロックは観客の様子を見ている。新しいアイデアがウケているかどうか、目を皿にして観察するのだ。この何十回にも及ぶ失敗と観察が、世界ツアーを成功させるために必要となる。ロックほどのコメディアンが失敗を毎夜毎夜晒しているとは、おそらく多くの人は想像できないだろう。

■「失敗を許容する環境」があったピクサーの成功
 CG技術をアニメ映画に取り入れ、大ヒット作品を連発するピクサー。その方向性をスティーブ・ジョブズが決定付けたことは、あまりにも有名だ。
 もともとCGが収益に結びつくとは誰も考えておらず、今やディズニーのベテランのアニメ作家となっているジョン・ラセターも、当時はコンピューター・アニメーションの責任者だったものの、デスクはホールの隅に置かれている有様。給与は年にざっと14万ドルで、さらに数人のアシスタントの給与はもちろんそれよりずっと安かった。1988年にジョブズがピクサーに投じた金額は数千万ドルにも上っていたため、その中でアニメーション・チームにかかるコストはほとんど無視できるレベルであったのだ。
 しかし、何より重要なことは、彼らに短編アニメの製作が許可されたことだった。そのため、テクノロジーの改良はもちろん、ノウハウ、業界での知名度や評価を含め、コンピューター・アニメーション分野でのピクサーの資産が拡充した。それが後の『トイ・ストーリー』の製作につながっていくのだ。
 コスト面でも、そして製作面においても、失敗を許容し得る環境があった。つまり、失敗を積み重ねながら高い能力を手に入れる環境があったことが、ピクサーの強みと言えるだろう。

 ここでは個人と組織、2つの事例の一部を取り上げたが、書籍タイトルとなった『小さく賭けろ!』の意味が、少しはお分かりいただけただろうか。
 小さな挑戦を繰り返し、「許容し得る失敗」の中で学ぶ。コメディアンのロックはスベる姿を客に晒して、評判に響くことを恐れないのかと不審に思う人もいるかも知れないが、そこに来ているほとんどの客はロックがネタを完成させる過程をその場で見られることを楽しみにしているという。

 本書では、創造的な方法で「小さな賭け」を繰り返す事例がふんだんに盛り込まれている。一読すれば、成功するために必要なものは、天才的なひらめきではなく、よく練られたアイデアだということがよく分かるだろう。
(新刊JP編集部)



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