中2病は愛でるもの(犬山紙子のイラストエッセイ)

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中2病……いまやリアルで使ってのいいくらいにまで認知度が高くなったこの言葉。みな、何かしら思い当たるところはあると思う。私だってもちろんいっぱいある。そして、中2病はネタにする、というのが主流の扱い方だろう。私も自分の中2な部分は自虐ネタとして活用している。

しかし、他人の中2はどう対応するのか。私は一つルールを最近作ったのだ。それは……愛でるのである。先日も愛でさせていただく状況があったので、ちょっとここで紹介しようと思う。


とある飲み会に参加したときの事である。規模は30人ほど、とかなり大規模。イベントの趣旨は“モンスター好き”が集まるものである。もともと集まっている人たちは、モンスターのイベント? なんかの顔見知り同士らしい。私は主催者のI君と友達で、I君が東京から離れるかもしれない、という話を聞いてたのもあり、アウェーな中の参加であった。まあ、好奇心半分というのも否めないが。

渋谷のラブホテルのまん前のお店が会場だった。お店に入るとすでにほとんどの人がそろっていたのに感心した。私は時間ぴったりについたんだけど、こういう飲み会で時間ぴったりにほとんど全員が集まっているなんてすごい。モンスター好きはみんな時間にきちっとしているのか。そう思いながら、席に座り、みんなで乾杯。男性と女性がちょうど半々くらい。私は、もうこの時点で1人ターゲットを見つけていた。



サティ君である。アシンメトリーな髪型に、何かわからないがこだわりのありそうなピアスにめがね。ずっと斜め上を見ては一言もしゃべらない。みんなが自己紹介を一言ずつしたときに、彼は
「サティです」
とボソッといってすぐ座ったので私は名前を知っているのである。多分、サティは、ジムノペディとかで有名なエリックサティからとったのだろう。
「これは……私の好きな……中2の匂いが……!」
そう思った私は、隣に座っていた女装子と適当に話していたのだが、目でチラチラとサティを追っている自分がいた。とにかくサティのしているピアスが何か知りたい。何か、紙? のような、何か書いてあるような見た事もないピアスをしているのだ。

女装子が
「私が女装をし始めたのは人と同じが嫌だったから」
と結構大切なことを話し始めたが、私はもうサティに夢中。

とうとう女装子との話を一旦中断して、セルフサービスの飲み物を取りにいくついでに、飲み物付近で1人誰とも話さずアンニュイな表情をしているサティに話しかけた。

「あの、そこのオレンジジュースを取りたいので、ちょっとごめんなさい……」

話しかけたというか、クレームか。オレンジジュースの目の前にサティが立っていたため、取れなかったのだ。するとサティは何も言わず、オレンジジュースを入れてくれたのだ! ちょ! サティ優しいでやんの! から、
「ありがとうございます」
と言いつつ、ちょうど良かったのでそのまま話をふってみた。
「お酒は飲まないんですか?」
サティは私と同じく、オレンジジュースを飲んでいたのだ。すると

「……酒絶っているんだ……」
とつぶやく。ここで、何で? と聞きかえすのは良くない。愛でるということは、彼の世界観を楽しまなきゃいけないのだ。だから

「私も……絶ってる……」
と返答。綾波みたいなしゃべり方を意識しながら。本当はこの日、超・二日酔いで少し気持ち悪く酒を飲めなかっただけだが、絶っているといえば、絶っている。ウソじゃない。

すると、サティが語りだす。
「こういう、人の集まる場所は……苦手なんだ……」
いつもの私なら
「じゃあなんで来たんだ?」
と聞くところだが今日の私は違う。
「私も……」
苦手どころか、本当は初対面の女装子に、なぜ女装をするようになったか? というプライバシーの侵害スレスレの質問を投げかけるくらい、神経の太い私だが。
「君、名前は?」
とサティに聞かれたので

「犬山」
と答える。さっきの自己紹介で犬山と名乗ってしまったからウソをつくわけにもいかない。もうちょっと中2な雰囲気の名前を名乗りたかったところだったのに。
「俺はサティ。ご存知、あのサティから名前をいただいたよ」
やっぱり、エリックサティからサティをとっていたようだ。中2のサティと言えば、エリックサティ以外ないだろう。なんだか中2バトルをしたくなってきた私。

「サティと言えば、私は『干からびた胎児』* が好き」

*「Erik Satie - Embryons desséchés」『YouTube』
http://youtu.be/a4GBjUncqkI

実際にあるよ!

本当に一番好きなのは『お前が欲しい』という曲なんだけど、ここでの正解は多分、『干からびた胎児』だと私の中2レーダーが察知したのだ。すると、サティ
「ほう、あれは確かに名曲だね」
と相づちをうってくれた。そして、
「『ヴェクサシオン』ってわかる?」
と言われる。

「ああ……あの840回繰り返せってラヴェルの指示がついてる曲……」
これ、『トリビアの泉』でやってたから知っていた。けど、『ヴェクサシオン』を知っていたのが、サティ的には合格だったんだろう。

少し微笑みながら、ピアスを指差した。とうとう、ずっと気になっていたピアスの謎を教えてくれるのか!

よく見ると、それはなにかの曲の楽譜を模写したプラバンだった……。若い読者の方はプラバンを知らないかもしれないので一応説明しようか。なんかプラスチック(?)の板に絵とかを描いて、トースターでチンをすると小さくなってできあがり、というやつである。小学生の頃そういえばよく作った。サティはこれに多分、サティの曲の楽譜を書いて、トースターでチンをして、ピアスの金具を自分でつけたのだろう。



ブッ!!!! と噴出しそうになったが、それでは愛でていることにはならない。
「これ……」
とだけ言って自分の椅子に帰った。噴出すのを我慢しながらサティとの会話はもう無理と判断したのである。

またオレンジジュースを飲みながら女装子と語る。サティは最初は1人でいたが、その後、女の子なんかに話しかけたりしていた。何かかばんから紙を取り出して女の子に見せたりしている。自分で描いたモンスターを見せているのだろうか。



女装子が
「私、人と一緒なのが嫌で女装をはじめたけど、最近男の人を恋愛対象としてみるようになってきた」
と、カミングアウトをしたころ、お店の終了の時間になり、お開きの流れに。

ちらっとサティを見ると、手に酒を持っている。どうやら、女の子を口説くのにしらふじゃ無理、と判断したのだろう。かわいらしいやつである。そして、会計が終わりサティが真っ先に外に出た。

私たちが外に出たら、サティは、目の前のラブホテルの前で座り込んでいた。大丈夫か? と思ったが、それよりも目に入った光景にまた噴出しそうになった。

サティがしなだれかかっているラブホの名前が、モティだったのだ……。モティにサティ……。笑いを堪えるのに3分ほど頑張る。他の人たちはサティの横に行って心配をしている。しかし、サティは何か駄々をこね始め、動こうとしない。……多分、サティのやつ、心配しに行ったのが、女性じゃなく、男性だったから計算外だったのだろう。駄々のこね方を見ると、あれは元気である。多分女性にかまってほしかったのだ。男性が肩にサティをつかまらせて立たせようとすると

「俺には6つのポケットがあるんだよー!」
とよくわからないことを言い出した。中2病は愛でるものだが、迷惑をかけるかまってチャンは愛でるもんじゃあない。私はさっさとサティを立たせて帰ろうと思い近づいた。男性3人でワイワイサティを立たせようとしている後ろで、サティのものと思われる『iPod』が落ちていた。

もちろん、聞いてみた。

サティ、聞いてるのサティじゃなくて、エンヤだった。やっぱり中2病は、愛でるものだよな、とよりいっそう思った。

お・わ・り!


私は中2病は、いい具合に発酵させると、良い作品になったりすると思っている。中2病は使い方次第でよくも悪くもなるものなのだ。みなさんも恥ずかしい、と全否定する前に、ちょっと中2病を肯定してみてはいかがでしょーか?