長年、ジョージ・クルーニーの熱烈なファンの私でも、この数年はどれも似たような役ばかりで若干辟易していた。クールで大人でタフで女性にモテるがコミットしない。実生活とかなり似通った印象があり、映画製作や政治活動にも積極的だから、まあ、俳優業はそんなかんじでもいいのかなあと思っていたら、待ってました、こんな傑作。話題作をおさえて意外にも今年のゴールデン・グローブ賞(ドラマ部門)で作品賞と主演男優賞を受賞したし、他にもアカデミー賞をはじめ、多くの賞にもノミネートされていた。アレキサンダー・ペインのような知性派の監督と組んだのもうれしく、公開を心待ちにしていた作品。


(C) 2011 Twentieth Century Foxハワイのオアフ島に暮らす弁護士のマット・キング(ジョージ・クルーニー)の人生は、妻のエリザベスが突然の事故で昏睡状態に陥った日から変わる。家のことは全て妻に任せきりだった彼は、反抗期真っ只中の長女アレックス(シャイリーン・ウッドリー)や、次女スコッティ(アマラ・ミラー)の扱い方に手を焼く。また彼は、先祖代々受け継がれた広大な土地を売却する課題も抱えていた。莫大な富が親族に入るが、自然破壊を反対する者もいる。そんなある日、マットはアレックスから、妻が浮気をしており、危篤であっても許せないと告げられる。突然の告白に激昂するマットだが、浮気相手に妻の現状を知らせようと決意する。

おそらく昨年度の賞レースの中で、最もフツーで、王道を行っていて、落ち着いて誰でも安心して観れる映画だと思う。かみ締めるほど味が出るし、ストーリーに重きを置くアメリカン・インディペンデント映画の伝統を感じさせる良作。原作が存在するが、やっぱりアレキサンダー・ペイン監督だからこそ、の映画だ。「サイドウエイ」から7年、しがない中年男のキャラクターの描き方も上手いのだが、肝心なストーリーがきちんと織り重なるように展開するのもいい。最後に"あるシーン"があるのだが、あの瞬間の為にこの映画が存在するのだなと実感させられるような構成がいいなあと。そのシーンでゆっくりと涙が出た。

またハワイという独特の場所の設定も興味深い。リゾート地でこんな俗的な話が展開されるのも面白いし、原題が"The Descendants"(子孫達)とあるように、祖先のルーツや伝統を守ることの大切さ、それを受け継ぐ家族の素晴らしさを訴求するにはぴったりなスピリチュアルな場所。美しいハワイの大自然やハワイアンミュージックも満載で、ハワイ好きな人は必見。

ジョージ・クルーニーはキャリア最高の演技を見せたといわれている。仕事一筋で家庭を省みず、実は妻に浮気されていた中年男を、独身主義を貫く世界一有名なイケメンの彼が演じるのはどうか?と思ったが、人間味溢れる面が見えて意外としっくり。ある映画祭で実物を至近距離で見かけたことがあるが、気絶しそうなぐらい素敵だった。これからもバラエティに富んだ役柄に挑戦してほしいと願うことしきり。(★★★★☆)

−アメリカの著名な映画情報・批評まとめサイト「ロッテン・トマト」では:89点

5月18日(金)TOHOシネマズ 日劇他全国ロードショー

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