「日本男児」という言葉がある。

 もちろん「日本の男の子」という意味ではない。「男児」と「男子」には、「男の子」という意味だけではなく、「成人の男性」「一人前の男性」という意味もあるのだ(私が名付けた「草食男子」も、「男の子」ではなく「男性」という意味である)。

最近では、イタリアのサッカークラブインテルに所属する長友佑都選手が『日本男児』という著書を出した。「サムライ」よりも「日本男児」というほうが、なんとも長友選手らしい。

 ところが、「女児」には「成人の女性」「一人前の女性」という意味はなく(「女子」にはその意味があるのだが)、「日本女児」という言葉もない。

 「日本男児」とくれば、「大和撫子」となるわけだ。そして「日本男児」という言葉はなぜか辞書には載っていないが、「大和撫子」は載っている。

 「日本女性の清楚な美しさをほめていう語」(大辞泉)だという。

 とはいえ、「撫子」という花が清楚で美しいから、女性にたとえられているわけではないらしい(たしかに地味な花ではある)。

「撫でし子」と書くので、「なでるようにかわいがっている子。いとしい子。愛児。歌などで、植物の「ナデシコ」と「撫でし子」を掛け詞にしていうことが多い。」(大辞泉)ということから、子供や女性を形容するのだそうで、まあだじゃれである。

最近では、サッカー日本女子代表の「なでしこジャパン」がワールドカップで優勝したことで、この言葉が復権した。

 サッカーだけではなく女性スポーツ選手は「なでしこ」と称され、それどころかスポーツだけでなく、様々な分野で活躍する女性も「なでしこ」と言われたりする。

 社会学者の上野千鶴子は「『やまとなでしこ』の意味を、従順で耐える女から、挑戦する女の別名に変えた」(2012年1月28日、朝日新聞)と評価した。

 上野はかつて、1996年に刊行した『きっと変えられる性差別語』(三省堂)のなかで、「無理して女性らしさを求める必要はなく“やまとなでしこ”を使用する必要はない」と書いていたのだが、この15年あまりで大きな変化があったわけだ。

 ただそれでも、「大和撫子」や「なでしこ」という言葉には、「スポーツや仕事でがんばっていても、清楚な日本女性らしさを忘れないように」という、えもいわれぬ脅迫を感じてしまって、私は苦手だ。

 そんなわけでこの連載では、あえて「ニッポン女児」という言葉を作り、現代の日本女性について、あれこれと考えていきたい。

ドリカム、AKB48、モー娘。……
世間を騒がす「ニッポン女児」たち

 さて、最近話題になった女性有名人にまつわるニュースと言えば、DREAMS COME TRUEの吉田美和が19歳年下のミュージシャンと結婚したこと、AKB48のセンター前田敦子が卒業を発表したことなどがある。

 それぞれ、いまの「ニッポン女児」の変化を象徴しているニュースだと思う。

 たとえば吉田美和さんの結婚。相手が19歳年下ということでさすがに驚かれてはいるものの、大きく批判されることは少なかった。

 しかし今から23年前の1989年に、歌手の小柳ルミ子が当時36歳で、13歳下で23歳のダンサー大澄賢也と結婚したときには、世間のバッシングは「色ぼけ」「気持ち悪い」などとひどかったものだ。結局2000年に、大澄の浮気などが原因で離婚するのだが、そのときも「若い男と結婚したら、浮気されるに決まってる」という反応で、小柳に同情する世論は少なかった。

 ところが最近では、有名人だけではなく一般人でも、女性が年上の結婚が珍しくなくなっている。

 AKB48のあっちゃんの卒業も、アイドルの卒業や引退自体は珍しいものではないとはいえ、アイドルを巡る状況は大きく変わってきていることの一つの表れといえる。

 AKB48は、劇場での公演や握手会というアナログなファンとの交流とともに、ネットでも交流するという、アナログとデジタルを組み合わせたモデルとして成功している。

 彼女たちは、ネット上の悪評なども見ざるを得ず、また自分たちがこの先どのように芸能界で生き残っていくかを自覚的に考えざるを得ない世代のアイドルでもある。

 彼女たちの前に一時代を作ったモーニング娘。は、卒業後、結婚したり出産したOGも含めて、ドリームモーニング娘。として再結成となり、最年長の中澤裕子はなんと38歳で元気に歌い踊っている。

 子供がいても、38歳でも「現役アイドル」でいられるようになったのだ。

 こんなふうに、私たち「ニッポン女児」がどのように変わったか、一方でどこが変わらないのかを、この連載で考えていきたいと思っている。

「そこそこほどほど」の生き方

「そこそこほどほど」の生き方


深澤真紀さんが日経ビジネスオンラインで連載していた「自分をすり減らさないための人間関係メンテナンス術」が、上野千鶴子さんとの対談を収録して『「そこそこほどほど」の生き方』というタイトルで、文庫になりました。
中経出版(文庫)/600円