学生の「偏った地元志向」が変化。震災が視野を広げるきっかけになった

就職白書2012 | Vol.04

福島大学 五十嵐敦(あつし)さん

学生の「偏った地元志向」が変化。震災が視野を広げるきっかけになった


■採用活動全体に「震災」の悪影響は見られず、学生の意思次第

福島県は、3.11の震災やそれに伴う原発事故の大きな影響を受け、学生の就職活動も自動的に遅れることとなりました。当時の3年生は「先輩たちから聞いていた動きと大きなズレがある」という焦りを持つ傾向もありましたが、戸惑いながらも「こういうものか」と受けいれていたようでした。もともと積極的に動くタイプの学生はそれまでと同様の活動をしており、全体的には例年と大きな違いはなかったと感じます。ただ、「震災の影響で、2012年卒の就職活動は厳しくなる」というマスコミ報道に惑わされ、焦燥感を抱く学生も一部に見られ、以前から重視していた情報リテラシー(情報を使いこなす能力)のトレーニングが一層必要であると実感しました。これは研究能力ともいえます。

本学の学生は、全体の4割程度が地元福島県の出身で、例年、そのうちの7割が地元に残ります。県外出身者はその6割が地元(出身地)回帰です。国立大学のためか、入学者の過半数は公務員志望で、特に地元志向が強い学生は「教員」「公務員」「地元の金融機関」のみに目を向ける傾向にありました。しかし、今回の震災の影響で、南相馬市は一時的に、浪江町や双葉町などの役場が移転し、県内の教員採用も県外避難による子ども人口の減少を要因に見送られ,さらには地元金融関係の支店が大きく被災したりもしました。自分や家族が想定していた仕事への道が閉ざされ、違う方向に進まざるを得なくなったことは、学生たちにとってショックな出来事であったと感じます。

とはいえ、これらの状況が、学生の視野を広げるきっかけにもなったともいえます。それまで地元の金融機関を志望していた学生が近県の中小企業で営業職の内定を得た例もありますし、東京都で一時教員としての福島採用枠が設けられたり、首都圏の教員採用数の増員などもあったため、地元以外での就職を目指す学生も増えました。地元のみに目を向け、偏った職業イメージを持つ学生も、中小企業や他地域を視野に入れざるを得ない状況があったことで、活動の幅を広げる結果になったと考えます。

もちろん、あきらめて動かなくなる学生も出てきましたが、比率としては例年と変わらない。むしろ、全体的には積極性が高まっていたと感じます。本学にも、実家が避難区域に入ったり、津波や震災の被害を受けた学生がいましたが、大変な状況でも積極的に活動を続け、震災で感じた思いを面接の強みにできたというケースもありました。その一方で、ボランティアに参加せず就職活動を行うことに罪悪感を持ったり、震災の影響を活動停止の言い訳にする学生もいたようです。どのような状況にあっても、障害を乗り越えて適応していくかどうかは本人の意思と考え方次第といった面もあります。マスコミの報道では、極端な部分がクローズアップされ、ネガティブな事例ほど目立ってしまうため、そこに引きずられてしまうケースも少なくない。学生には冷静な目を持って就職活動をしてほしいと思います。

2011年12月の時点では本学の内定率は62.7パーセントと、前年同期の64.6パーセントを下回っていますが、学生からの報告率が低かったこともあり(採用活動が遅れたことも一因)、一概に低下したとは言えません。例年、公務員や教員採用を目指す学生が多いことで、遅れて就職活動に移行したりしています。また、確認できた2011年卒の内定取り消し者は、卒業者約1000名のうち、5名のみでした。そもそもリーマン・ショック以来、就職市場は厳しい状況が続いてきましたし、円高や企業のグローバリゼーションによる影響も考えられます。「震災」がクローズアップされているだけで、日本全体の新規学卒採用活動については、直接的な影響を受けていないのではないかと考えます。

今回の被災地域の多くは、農業や漁業が中心の若年雇用の少ない地域であり、かつ高齢化地域でありました。また、福島県内に限って言えば、これまでも企業誘致による雇用に頼っている状況や、ターミナル駅前にすらシャッター通りを抱えるほどの人口減少の問題がありました。現在、復興特需によって求人数は増加したものの、建設業などの偏った職種で、期間も限定的なものばかりのため、地元で働きたい学生がいてもミスマッチとなります。つまり、これまで抱えていた雇用の問題が震災によってより表面化したと言えるのです。今後は、地域で経済基盤を整え、雇用のあり方を見直すと同時に、大学側でも学生たちの視野を広げ、グローバルにほかの地域でも活躍できるようなキャリア教育をしていくことが重要だと考えています。


■目標に固執せず、自分の資源を柔軟に生かすための行動を

2011年は、就職活動だけでなく、自分の生き方やあり方を見直すことができた時期とも言えます。いい意味で「自分自身を見つめ直す機会」が多かったのではないでしょうか。学生の皆さんには、自分の偏ったとらえ方で仕事の可能性を限定せず、今までの経験を意識して生かす方法も考えてほしいと思います。一つの目標を持つことも大切ですが、それだけではつぶれてしまう可能性もあり賢い目標の立て方が大切です。また、震災を機に「地元に貢献したい」という意気込みもわかりますが、地元で働く以外にも、地域に貢献できる方法はあります。自分の中にある資源をムダにせず、柔軟なとらえ方のもとでさまざまな行動を起こす好奇心が大切だと考えます。

大学教育の場は、実験的に試行錯誤を楽しむことが許される場と言えます。皆さんにとって大学時代は、学問を通じて学ぶトレーニングをすると同時に、就職についても試行錯誤して迷える時期、つまり、自分のキャリアを作るための基礎トレーニングの時期と考えてもいいのではないでしょうか。学生の皆さんは、何に対してもすぐに答えを求めがちですが、人生においては何が役立つかはわからないもの。成果や答えをすぐに求めることなく、トライ&エラーを繰り返しながら将来に向かって可能性を追求してほしいと思います。