失われたものの大きさを知り、学生の「就業観」が前向きに変化した

就職白書2012 | Vol.03

東北学院大学 桔梗元子(ききょう・もとこ)さん

失われたものの大きさを知り、学生の「就業観」が前向きに変化した


■「生きるために、誰かのために」。仕事への意欲と意識が高まった

今回の震災では、本学も学生も被災。津波で自宅を流された学生、ご家族を亡くした学生、また、就職活動で出かけた東京で被災し、なかなか帰ってくることができなかった学生もいました。学内では施設の壁が崩れ、窓ガラスが割れるなどの被災があったため、3月中は大学を一時的に閉鎖、再開できたのは5月の初旬のことでした。大学側では震災直後から学生一人ひとりに安否確認を取る努力を4月半ばまで続けていました。学費の納付期限の5月になってようやく家族を含む全体の状況が把握でき、被災学生に向けた授業料の減免措置や緊急奨学金制度、就職活動交通費補助などで支援していくことになりました。

就職活動においては、被災した学生と、それ以外の学生との間には、大きな差が生まれていました。被災していない学生は3〜4月も活動を続けていましたが、津波で自宅を流失した学生は携帯電話もパソコンも失ったので、エントリーしていた企業がどこだったかを確認することもできず、逆に企業から連絡が来てもわからない。それに、避難所などの仮住まいでは、郵便物の届け先も指定できません。第一、履歴書の住所をどこにすれば良いのかもわからない。さらには活動しようにもスーツも靴もないという状態でした。大学側でもなんとかサポートしたいと考え、震災直後、まずは仙台地域の学生職業センターに利用できるようにお願いをしました。また、パソコンは大学のものを学生が使えるようにし、スーツや靴なども個人の方や企業からご提供いただいたものを希望者に手渡したりもしました。それ以外にも、生活に必要な各種の手続きから葬儀の手配の方法など、悲しみの中でも懸命に生きていこうとする学生たちのさまざまな相談に応えました。当時の3年生は3000名程度でしたが、そのうちの約1割強は7月ごろまで活動をストップしていた状況だったのです。

学生たちが被災による悲しみや困難を乗り越えて動き始める様子に、「大学側にも、もっとできることがあるはず」と考えました。しかし、説明会を開催したくても、近隣のホールやホテルも被災のダメージが大きく、使えない状況でした。ようやく泉キャンパスの体育館が使用できる状態になり、東北地区28大学が加盟する「東北地区私立大学就職問題協議会」が8月に全国200社の企業を集めて合同企業説明会を大学職員手づくりで開催。この説明会に参加した学生たちからは、かつてない真剣さが感じられました。「生活を安定させるためにも働きたい」という、仕事に対する意欲の高さがあり、参加企業からも「この説明会で採用を決めた」という声を聞くこともできました。

最終的な2012年卒の内定率は、まだ調査中ですが、例年に比べて微増したと感じます。関東近郊の企業への就職率も若干上がった傾向にありました。また、2011年卒については内定取り消しになるケースもありましたが、企業そのものが津波の被害を受けたなど、やむにやまれぬ背景があり、リーマン・ショックの時とは事情が違いました。こうしたケースは、東北地方のほかの大学でもかなりありましたね。ただ、6月になってから「まだ決まっていなければぜひ」と声をかけてくださる企業もあり、それによって二十数名ほどの学生が就職を決めることができました。

今回の震災で、東北の学生たちの就業観は大きく変化したと感じます。大手志向ではなく、中小企業にも目を向け、「とにかく働きたい」という前向きな意欲を持つようになりました。生きていかねばならず、生活のために働かなくてはならない。3.11を境に、そうした高い意欲が芽生えたのではないでしょうか。また、地元近くでの勤務を希望していた学生が東京で働くことを決断したり、民間企業を志望していた学生が、警察や消防、自衛隊の活動を見て社会貢献できる仕事を目指すようになったり、ボランティア活動を経験した学生が「人の役に立てるようなことで起業をしたい」と考えていたり。失われたものの大きさを知り、避難所で多くの人々と一緒に過ごし、助け合う生活をしたことで仕事に対する意識や考え方も変化したのではないかと思います。震災によって多くの出来事に向き合った結果、数字では測れない「働くことへの前向きなモチベーション」が生まれました。これからどのような状況が訪れても、向き合っていくことができるだろうと私たちは考えています。


■就職活動は「自分との闘い」。希望を持って前向きにチャレンジを

東北の学生たちは困難な状況の中で懸命に頑張ってきました。自宅が流され、「もう就職活動をやめる」と言いながらも、そこから奮起した学生もいます。ご家族すべてを亡くしてしまった学生もそれを乗り越え、「自分は生きられたのだから、家族の分まで頑張らないと」と考え、とにかく行動していきました。彼らが内定を得ることができたのは、「生きたい」「仕事に就きたい」という前向きな思いがあったからだと思うのです。

今後、皆さんが就職活動を進める中、面接選考に何度も落ちることがあるかもしれませんし、「自分の何が悪いのか」と後ろ向きになることがあるかもしれません。けれど、東北の多くの学生たちは、被災を受けたからといって自分への逃げ道をつくることはせず、どうすればいいのかを考え続けていたのです。

現在、東北の地域経済は大きな打撃を受けていますし、今後の経済状況によって、全国の採用活動がどう変化していくかもわかりません。が、働くことへのモチベーションを持ち続ければ、頑張り続けることができ、やがて内定を得ることができるはずです。最終的には、就職活動は「自分との闘い」なのです。どんなことがあっても希望を持って、前向きにチャレンジしてほしいと願っています。