福島第一原発事故は、今もなお被災地の漁業に大きな打撃を与えている。4月から、食品に含まれる放射性セシウムの基準値が、厚生労働省によって1kg当たり100ベクレルに設定された。しかし、茨城県の水産物には、全国基準よりもさらに厳しい自主基準値が独自に設けられている。

「茨城県では、放射性セシウムが1kg当たり50ベクレルを超えた場合の出荷自粛を決めました。全漁連(全国漁業協同組合連合会)としては、愚直なまでに検査をして安全なものを出荷していき、消費者の方々に理解していただくほかありません」(全漁連漁政部)

 漁業関係者たちは震災の傷も癒えないなか、なんとか消費を回復してほしいと奮闘している。宮城県南三陸町で昆布の養殖をしている漁師がこう話す。

「1回の検査に2万円がかかる。それでも放射能汚染がないということをわかってもらうために、昆布を検査器にかけています」

 それほどの手間をかけても、市場の反応はシビアだという。東京・築地の仲卸会社社長はこう語る。

「震災以降、三陸産の魚はほとんど入っていない。もちろん福島県はゼロ。鹿島(茨城)、銚子(千葉)からの入りもかなり悪い。大きな声では言えないけど、客(スーパー、ホテル、レストラン、料亭など)に『駿河湾から東側の魚は絶対に入れるな』と言われるから。市場としては、儲けにならない魚を仕入れてもしょうがない。漁師からすれば、魚を獲っても市場が買ってくれないから『船を出さない』となってしまう」

 伊豆半島に面した駿河湾から東ということは、東北どころか、神奈川や東京の魚も含まれてしまう。検査で安全な数値が出ても、消えぬ風評被害。漁業関係者たちの苦悩は続く。

(取材/頓所直人、興山英雄)

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