元英国諜報部員のジョン・ル・カレが、実在の事件を基に描いた有名小説「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」の映画化だ。昨年のヴェネチア映画祭で話題となり、全英、全米で公開後に圧倒的な興行成績を記録。英国アカデミー賞作品賞、脚色賞受賞、そして主演のゲイリー・オールドマンが初めて米国のアカデミー賞にノミネートされた。演技派の英国俳優達が多く出演しているし、監督は「ぼくのエリ 200歳の少女」がとても良かったスウェーデンのトーマス・アルフレッドソンだし、かなりの期待を胸に試写にお邪魔した。もちろん、公式サイトにある"必読"を読んでから。

Jack English (c) 2010 StudioCanal SA
1970年代前半、東西冷戦下。英国諜報部(サーカス)のリーダー、コントロール(ジョン・ハート)は、幹部の中にソ連KGBとの二重スパイ〈もぐら〉がいるとの情報を掴む。ブダペストにいる情報源との接触を試みるが失敗し、長年の右腕の老スパイ、ジョージ・スマイリー(ゲイリー・オールドマン)と共に組織を去る。その後、コントロールは謎の死を遂げ、引退したスマイリーに政府幹部から〈もぐら〉を探し出すよう極秘命令が下る。標的はビル・ヘイドン(コリン・ファース)を含む組織幹部の4人。過去の記録を遡り、証言を集め、容疑者を絞っていくスマイリーだが、やがて驚くべき意外な裏切り者の正体を掴む。

渋い。渋すぎる。スパイ映画とはいえ、派手さはなく、頭脳戦に特化したストイックな作りがたまらなく良い。自分の理解力の悪さゆえ戸惑いもしたが、"必読"を前もって読まなくても多分ストーリーについていける。以前テレビシリーズ化された際は7話まであったそうだが、よくも128分の映画にまとめたものだ。じっくりと演技が楽しめ、ストーリーも非常に静かに展開するので、個人的には好みの映画だが、アクション満載のスパイものに慣れている人は物足りなく思うかも。最後のほうは若干走ってしまった感も否めないが、本当にラストのラストまで「次はどうなる?」と引っ張られ、飽きることがなかった。

今更ながら、ゲイリー・オールドマンの多彩ぶりと強いオーラに驚く。冒頭の長い間、ほとんど一言も話さないが、圧倒的な存在感だ。エキセントリックな役柄の多い印象だが、その経験も演技に厚みを与えたのだろうと思わせる名演。他にもコリン・ファースや、ジョン・ハートなど英国を代表する俳優達が多く出演しているが、その中で光っていたのが若手のベネディクト・カンバーバッチ。ゲイリー・オールドマンの忠実な部下を演じ、控えめながらも好印象。


Jack English (c) 2010 StudioCanal SA
また、さすがの英国映画らしく男性のスーツやコートの着方がオシャレ。70年代ではあるが仕立ての良さが伝わってくる正統派の着こなしは参考になりそう。それに音楽のセンスが良い。昨年度アカデミー賞作曲賞にノミネートされたが、アルモドヴァル監督の作品の音楽を長年担当しているA.イグレシアス。そういう美的な側面も意外と楽しめる英国スパイ映画の傑作だ。(★★★★☆)

−アメリカの著名な映画情報・批評まとめサイト「ロッテン・トマト」では:83点

4月21日(土) TOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館他全国順次公開

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