1990年より9月入学制度を実施。多様性の確保につながっている

就職白書2012 | Vol.07

慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC) 國領二郎さん

1990年より9月入学制度を実施。多様性の確保につながっている


■入学・卒業時期の柔軟化がSFC設立理念の実現に寄与している

慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の設立理念は「問題発見、問題解決型」のリーダーを育成すること。自律的に考え行動する力は、異なる価値観との出合いがあってこそ育まれるため、SFCでは多様性のある人材が切磋琢磨する環境を大事にしています。その一環として世界に開かれたキャンパスを作ることを目指し、創設時(1990年)より総合政策学部と環境情報学部で9月入学制度を実施しています。

SFC創設から20年以上を経た今、グローバル化が完全に達成されたとは言えませんが、帰国生、留学生など海外高校出身者の受け入れは増加傾向にあります。また、一般に『若者が海外に行かなくなった』という話も聞きますが、SFCでは両学部から毎年約30名が海外留学をしています。両学部の在籍者数に対する海外留学をする学生の割合は、慶應義塾大学の他学部と比較して高い方です。背景にはセメスター制導入や2011年度からの英語による学位取得プログラムの設置(GIGAプログラム)などさまざまな取り組みがあり、一施策のみの効果を評価するのは困難ですが、9月入学制度が海外出身者の受け入れや日本人留学生の送り出しを円滑にする大きな要素の一つであることは間違いないでしょう。

9月入学生が国内で就職活動をする場合は、1学年下の4月入学生と同時期に就職活動を行うのが一般的です。9月入学生が就職で不利になったという話は聞きません。卒業から就職まで半年間のギャップタームが生じますが、海外留学やボランティア活動など有意義に活用しているようです。希望する場合は在学期間を半年延長する制度もありますが、学費の負担が生じます。また、相当の努力が必要ですが、3.5年早期卒業制度もあります。

大学の運営面では4月入学と9月入学の併存と卒業時期の柔軟化により事務処理が煩雑になり、コスト面の負荷が大きいのが課題。入学式から卒業式まで一連の行事や必修科目の導入授業を2回行うため、教職員にとっても手間がかかります。ただ、コストに見合う価値はあると現状では判断しています。海外からの留学生や日本からの派遣留学生の数の増加といった直接的な効果に加え、SFCには多様なキャリアを歩む友人と刺激し合い、力強さを身につけた人材が多いと自負しているからです。この「力強さ」は真の意味の国際競争力につながりますし、実際、SFCの卒業生には世界的にも独自性のある仕事をしている人材がたくさんいます。


■「秋入学」だけでは海外からの優秀な学生の確保にはつながらない

東京大学が秋入学全面移行に向けて積極的に検討を始め、日本の大学の国際競争力強化をめぐる議論に一石を投じたことは、歓迎すべきことです。大学の秋入学移行の規模によっては日本社会全体への影響も大きく、大学界全体での議論が不可欠だと思います。ただし、大学にはそれぞれ固有の理念があり、秋入学への全面移行がその理念の実現に寄与するものであることがまず重要です。その判断は各大学が自主的に行うべきでしょう。

また、入学・卒業の時期を世界標準化するだけでは、海外からの優秀な学生の確保にはつながりません。その大学でしか勉強できない教育プログラムを提供するのはもちろん、外国語による授業の充実や留学生のための奨学金の整備などさまざまな取り組みが必要です。一例として申し上げますと、SFCでは秋入学制度に加えて先ほどお話したGIGAプログラムを設置することで海外からの留学生数が前年比で大きく伸びました。

秋入学導入の検討にあたり、東京大学では入試時期は現行のまま、入試から入学までに半年間のギャップタームを設ける案が出ており、注目を集めています。ボランティアやNPO活動への参加などギャップタームの過ごし方によっては学生が見聞を広げる良い機会となり得るでしょう。個人的なアイデアですが、入学後の研究に役立つ専門知識を短期間で集中的に身につけられる合宿プログラムを実施するのも面白いかもしれません。ただ、ギャップタームに大学がどの程度プログラムを用意するのか、経済的支援はどうするのかなど課題は多く、慎重な議論が必要です。

慶應義塾大学では秋入学について学内の懇談会を立ち上げるところです。現段階では何も決まっていませんが、SFCの経験が学内での秋入学についての話し合いはもちろん、大学界全体での建設的な議論に役立てばと思います。