世界で活躍するアジア人テキスタイルデザイナーの中で、今もっとも注目されている人物が、フィリピンにデザイン活動の拠点を構える、韓国人デザイナーのユン・ニル・イー氏だ。
1959年韓国ソウル市生まれのイー氏は現在、フランスの有力エディター「NOBILIS」(ノビリス)のデザイナーとして、「NOBILIS」のデザインの他、自身の名前を冠したオリジナルコレクション「eunilee-Paris」を展開、また「ELITIS」(エリティス)とも外部デザイナーとして契約、この他ビッグエディターからも数多くのオファーを受けるなど、まさに世界が認めたデザイナーである。母国韓国では、淑明女子大学の客員教授として学生へのデザイン指導も行っているという。
イー氏のデザインの特徴は、韓国の伝統を含む東洋の文化的リソースと西洋文化を融合させた、東西間のバランスの追及にある。竹や雑草、木片、和紙といった自然の異素材を繊維に織り込むなど、化学素材と自然素材をミックスした独創的デザインは、東洋文化の再解釈として高く評価されている。さて、今や世界的テキスタイルデザイナーであるイー氏であるが、その経歴は一般的なデザイナーとは違い、まさに異色そのものである。イー氏がテキスタイルデザインの世界に入ったきっかけは、約20年前に当時韓国政府が行っていた発展途上国支援の一環として、フィリピンのシルク産業振興の事業に参加したこと。当初は現地の人々に養蚕ノウハウを教えたり、絹糸の売買などを手掛けていたが、産業育成のためには付加価値の高いものをつくる必要がある、という考えからデザインに着目、テキスタイルデザイナーとしての道を歩みはじめたという。
テキスタイルデザインについて体系的に勉強してきたわけではないイー氏だったが、独学でオリジナリティ溢れるデザインを提供し続け才能が開花、1996年にフィリピン・マニラで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)において、各国首脳が着用する民族衣装に、イー氏がデザインした「バロン・タガログ」が採用された。このときは政治的な理由で、韓国人であるイー氏の名前は公にはされなかったが、韓国では大きな話題となった。
その後2003年にテキスタイルメーカー「ARTVIVANT」(アールヴィバン)を設立、2004年にはメゾン・エ・オブジェに出展し部門賞を獲得、それが「NOBILIS」など有力エディターの目に留まり、一気に成功への階段を駆け登った。今では巨匠ウルフ・モーリッツ氏も一目置くほどの存在となっている。
日本ではマナトレーディングがイー氏とコラボし、3年前からオリジナルコレクションを展開、今年のメゾン・エ・オブジェでは、新作コレクション『Noh』を発表し話題を呼んだ。