山本太郎の所属事務所に嫌がらせ電話をかけたのは「工作員の方々」

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神楽坂の裏道で細々と営業を続けていた洋食屋「トレド」。東京理科大学による再開発のあおりで店じまいした。この店の名物は、37年間にわたって継ぎ足されてきたカレー。3月25日に放映された「ノンフィクション」(フジテレビ系)では、「名物カレーの消えた街」というタイトルでこの店をめぐる人間模様が紹介されていた。

筆者は、東京・合羽橋のイス屋の配送をときどき手伝っているのだが、ある日の納品先がリニューアルオープン直前の「トレド」だった。いったんは途切れてしまったあの継ぎ足しカレーが、ここで再びゼロから継ぎ足されていくんだなあ、と感慨深く思ったものだ。そして、その番組のナレーションを担当していたのは、山本太郎さんであった。

山本さんは多くの映画やドラマに出演し、最近では「アイシテル」(日本テレビ系)というドラマで殺人犯となった小学男子の父親役を好演していたのが印象に残る。フットワークの軽さと知名度が相まって、山本さんはいまや反原発を象徴する人物だといっても過言ではない。

とはいえ、世間からの注目度が一般人よりも断然高い俳優という職業には、それゆえのリスクがともなう。ソフトバンクの孫正義会長による脱原発の発言に影響を受け、デモなどに参加するようになった山本さんは、所属していた事務所を昨年5月に辞めた。いや、辞めざるをえなくなったというのが正確なところであろう。

「TV Bros.」(東京ニュース通信社)に連載されている「ウィキナオシ!」という企画は、自分のことが書かれたウィキペディアのページを、書かれた本人が直すというもの。この企画に山本さんが2週連続で登場した。同誌の「3.17−3.30号」に掲載された後半で、山本さん自身がウィキペディアへの加筆というかたちで、事務所を辞めた理由を記している。

まず、ウィキペディアの記述が「会社から慰留されたが、最終的には『事務所に迷惑をかけるわけにはいかない』という自身の意思による」というもの。そして、山本さんによる直しが「その通り。事務所にはたくさんの工作員の方々からお電話を頂戴し、通常業務ができなかったのだから、辞める以外ないよな」。

ようは、山本さんの活動に批判的な輩が、所属する事務所に電話をかけまくるという嫌がらせを行ったことが辞める原因のひとつになっていることを山本さんは匂わせている。こういう話を聞くたびに思うことがある。自分の主張や話を他者に聞いてもらいたいのなら、反対意見にも耳を傾けるという姿勢が必要だ、ということである。


たしかに、山本さんの行動や発言はそれこそ反原発一色であり、反対意見など聞く余地がないではないか、と思う人がいるかもしれない。しかし、そのことと、彼の行動や発言を気にくわないがゆえに所属事務所へ嫌がらせの電話をかけまくることは全く別の次元の話である。山本さんの言論に対して、同じ言論で答えたり抗議するのではなく、嫌がらせという行動に出ることはルール違反の卑劣な行為だと筆者は思う。

芸能界の仕組みから言うと、事務所を辞めた俳優が仕事を得るのは難しい。メディアとのコネクション作りやギャラの交渉、そしてスケジュールの管理などを、演じることが仕事である俳優にいきなりやれといっても無理な話だからである。よって、事務所を辞めてからの山本さんの俳優生活は困難を極めていることが予想される。

筆者のスタンスはあくまでも脱原発であり、山本さんの主張に全面的に同意しているわけではない。とはいえ、心のない輩(山本さんの言う「工作員」)による事務所への嫌がらせ電話が、彼の俳優人生を奪いつつあるという現実には強い憤りを筆者は感じる。あまりにも理不尽ではないか。

繰り返すが、有名人が顔をさらして政治的な主張を行うことにはリスクがともなう。特に芸能界はそのリスクが大きい。だから、いまテレビで活躍している俳優やタレントの誰もが、おそらく原発に対する個人的な思いを抱えつつ、それを公言しない。背に腹は変えられないということだ。

山本さんには、そんなリスクをやりすごすしなやかさがある。そして、リスクに対抗する覚悟がある。スタンスは違えども、筆者は山本さんのそんな姿勢を応援していきたい。



(谷川 茂)