厚生年金基金に2千億円もの穴をあけたことで、投資顧問のAIJがクローズアップされている。

「あと100億あれば勝てた」

というパチンコ屋から出てきたオヤジばりのトップの発言や、官僚OBの関連基金への天下りなどで論点が見えづらくなっているが、これは決して基金への規制強化だけで再発防止できるような単純な問題ではない。最終的には巨額の国民負担も発生するはずだから、Q&Aという形で問題の構造をおさらいしておこう。

国の年金財政の穴を、必死に埋めようとしたから

Q:なぜ、国民が負担しないといけないの?

厚生年金基金というのは、基礎年金(国民年金)、厚生年金の上に企業が独自につくる3階建部分のことだ。この部分だけなら潰れるにせよ減らすにせよ、企業の勝手にさせればいい。

だが、実は多くの基金は、2階部分の厚生年金の一部を国から引き受け、運用から給付まで代行している。この分については公的年金なので「基金がポカやったので自己責任」というわけにはいかない。税金か厚生年金の積立金かはわからないが、最終的には国民の負担で救済するしかない。

Q:なぜ、そんな無理な運用をしたの?

確かに、AIJ側はもちろん、本来は安定的に運用するべき年金資産でバクチをはった基金の担当者にも責任はある。ただ、彼らもバクチを張りたくて張ったわけではない。

国の厚生年金制度や各企業年金は、日本経済が今よりずっと上り調子だった70〜80年代に作られていて、給付額も利回りも今となっては実現困難な水準に設定されているものがほとんどだ。

厚労省の調査によれば、全国の基金の8割以上が運用利回り5.5%を想定しているというが、こんな数字を達成するには、高リスクの金融商品に突っ込む以外にありえない。バクチを張るしかなかったというのが実情だろう。

また、ほとんどの基金は、企業加算分より代行分の方が規模が大きい。つまり、企業内やOBで話し合って掛け金を上げたり給付金を見直したりできる余地は非常に限定的だということだ(勝手に2階部分の厚生年金の保険料を引き上げたり給付を削ったりはできない)。

Q:でも、国は年金積立金を安定的に運用してるよね?

ここがこの事件の構造を理解する最大のポイントだろう。実は2階の厚生年金本体は(仮に積立方式だと仮定すると)17%しか積立金を持っていない状態だ。ただし、定義上、これは積立不足にはあたらない。「現役世代と将来世代が不足分を負担する賦課方式だから、積立不足ではない」というのが厚労省のロジックなのだ。

一方、基金ではこういった言葉遊びは認められないから、彼らは現役社員のリストラでもなんでもやって補填するか、積立金でバクチでもはって積立不足を解消するしかない。要するに、国が放置している年金財政の穴を、必死に基金が埋めようとしているわけだ。

積立不足を認めたうえで、基金解散を認めるしかない

Q:そんな基金なんて、解散した方がいいんじゃないの?

本音では、ほとんどの基金は解散したがっているはずだ。でも、解散する際は、代行分の積立不足をすべて返済しなければならない。これは中小企業には高すぎるハードルだ。積立不足も解消できず、解散も認められないまま、ずるずると落ち続けているというのが多くの基金の現状だろう。

Q:対策はどうすべきか

上記の構図を理解すれば、運用面での規制強化などなんの問題解決にもならないことは明らかだろう。追い詰められた基金は、また別のAIJに手を出すか、掛金を負担できなくなった企業が倒産し、最悪の場合、基金内の連鎖倒産という形で他社に波及するはずだ。

対策としては、積立不足を認めたうえで基金解散を認める以外にない。ちなみに、基金の積立金の水準は必要額の3割以上はあるので、不足とはいっても国の厚生年金よりははるかに健闘していることになる。褒められこそすれ、国に責められる道理などないだろう。

厚労省が基金の解散を認めないのは、(厚生年金よりはるかに財務状況のマシな)基金のギブアップを認めることは、厚生年金自体の絶望的な未来を認めることに他ならないからだろう。だが、認めようが認めまいが現実は変わらない。AIJ問題が、その事実を国民に気付かせるきっかけになってくれることを願うばかりだ。(城繁幸)