体調不良でアルガルベカップのアメリカ、ドイツ戦を欠場した、なでしこジャパンのエース、澤穂希(さわ・ほまれ)の病名が「良性発作性頭位めまい症」と判明した。

 通常は1週間から1ヵ月程度で自然治癒するそうで、すでに3月14日から所属のINAC神戸(I神戸)に合流。ロンドン五輪に向け彼女の健康状態が心配されていたが、まずはひと安心といったところだ。

 しかし、この病気、専門家によれば「疲労やストレスが原因となる場合が多い」のだとか。もし今回の発症もそうなのだとすれば、かかるべくしてかかった病(やまい)だといえるかもしれない。

 昨年の女子W杯制覇後の澤の多忙さは尋常ではなかった。日常的なクラブの練習やリーグ戦、代表での五輪予選に加え、メディア各社からの取材、国民栄誉賞をはじめとした表彰もろもろ、各種イベントへの出席、テレビ・CM出演などに忙殺され、ほとんど休む暇がなかった。

 その上、I神戸が全日本女子選手権決勝に進出したため、昨シーズンは今年1月1日まで活動。それでなくても短くなっていたオフに、テレビの企画絡みでスペインへ“なでしこリーグV記念遠征”という名の海外ロケ(チームの渡航・滞在費用はすべてテレビ局持ちだという)やら、スイスで行なわれたFIFA(国際サッカー連盟)の女子バロンドール(年間最優秀選手)授賞式への出席やらが詰め込まれた。結局、彼女は、シーズン中と変わらぬ過密スケジュールに振り回されるはめに。

 これではトップアスリートの澤といえども、体が悲鳴を上げる。まず、スペイン滞在中の2月初めに行なわれたバルセロナ女子チームとの親善マッチで、右ふくらはぎに違和感を覚えて途中交代。直後に行なわれた代表候補合宿への参加を見合わせざるを得なくなった。そのまましばらく静養していればよかったのだが、当該箇所の回復状況がよかったことと、持ち前の責任感の強さからアルガルベカップに参加。ポルトガルで今回の病を発症してしまったのだ。

 女子W杯制覇という偉業を成し遂げた代表チームの大黒柱ゆえ、あらゆるところから引っ張りだこになるのは仕方がない。それにしても、ここまで彼女を疲弊(ひへい)させたのでは本末転倒だ。在阪スポーツ紙の記者が言う。

「結局のところ、問題は所属クラブのI神戸ですよ」

 I神戸はJリーグクラブの女子部門ではなく、パチンコ店などを経営する神戸の企業グループが立ち上げたクラブ。

「いわば素人集団なので、昨夏以降のなでしこブームのような需要過多の事態が起こったとき、選手を守るノウハウを持っていないし、そもそもそうした発想自体がなかった」(記者)

 それどころか、空前の大フィーバーに浮かれてしまい、「ここが売り込み時」とばかりに彼女を露出させまくったフシがある。実際、その窓口となっていたクラブの広報部門は、次のようなメディア対応をしていたという。

「全国ネットのテレビ番組や大企業のCMからのオファーとなると、順番待ちしている活字系メディアをぽーんと飛び越して出演させていたんです。要するに、より高値で澤やクラブを売れる媒体を優先していたわけです」(記者)

 こうした“メディア戦略”のかいあって、今やI神戸はなでしこリーグの中で断トツの知名度を誇る。そして続々とスポンサーも集まり、ただでさえ豊かだったクラブ財政はますます潤(うるお)っているというが……。

 多数のなでしこジャパン戦士を抱えるI神戸。7月のロンドン五輪に向け、各方面からの引き合いも再び多くなることだろう。今回の澤の病を教訓として、なでしこたちの体調管理には十分気を配ってくれることを願う。

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