デンマーク出身の鬼才、ニコラス・ウィンディング・レフンが監督した、ロサンゼルスが舞台のクライム・サスペンス。昨年のカンヌ映画祭監督賞を受賞し、米国で9月に公開されると、手厳しい評論家や映画通からは絶賛の嵐だった。これまた米国の友人達がこぞって薦めていたし、私の大好きな毒舌映画評論家ピーター・トラヴァースが並居る強力作品を差し置いて、2011年度のベスト1に上げていたから、かなり楽しみにしていた映画。

天才的なドライビングテクニックを持つ寡黙な"ドライバー"(ライアン・ゴスリング)は昼は映画のカー・スタントマン、夜は強盗の逃走を請け負う運転手。ある晩、彼は同じアパートで暮らすアイリーン(キャリー・マリガン)と小さな息子と偶然出会い、彼女と一目で恋に落ちる。一方ドライバーは、車の修理工場を営む自分の世話人が、マフィアの幹部バーニー(アルバート・ブルックス)が出資した金でドライバーと共にレースに出場したいという申し出を承諾。また、アイリーンの夫が服役を終え戻ってくる。彼女に惹かれながらも身を引こうと決めたドライバーだったが、夫が血塗れでいるところを発見してしまう。傍らには息子の姿が。そこでドライバーはアイリーンを愛するが為に危険な賭けに出るのだった。

献身的な愛を貫く為、残忍な暴力と犯罪に手を染める寡黙な主人公は、超クールで、まるで時代劇の浪人侍のようだ。突然街にやってきて、名前もなく、悪を成敗して街を去るみたいな。そんな主人公の疾走する車と共に最後まで続く緊張感を、徹底的に無駄を省いた超スタイリッシュなスタイルで魅せる。晴れて異常に乾燥したロサンゼルスの空気や、あの湿気のない夜の冷たい温度が感じられるぐらい臨場感があるし、音楽はエレクトリック・ミュージックあり美しいヴォーカルありで、全体の雰囲気の作りこみが独特で上手い。小さな製作規模ゆえ、監督の作家性がはっきりとわかる映画だ。ストーリーで魅せる映画ではないし、大衆向けではないが、排他的なスノッブさはなく、特に男性なら、即、主人公気分に浸れると思う。かなり暴力的なシーンも出てくるので、ちょっと覚悟がいるかも。

ライアン・ゴスリングは文句なしにかっこいい。ルックスの良さに加え、演技の上手さに定評があるがゆえ、この映画をはじめ意欲的な作品に挑戦しても、無理がない。今後、間違いなくハリウッドを代表する主役級の俳優になるはずだ。(★★★1/2☆)

−アメリカの著名な映画情報・批評まとめサイト「ロッテン・トマト」では:93点
3月31日(土)全国ロードショー