「何が職場のハラスメントに当たるのか」という議論が進んでいる。新たな定義も生まれているが、すべてをカバーできる例示は難しいだろう。そもそも部下や同僚の「人としての尊厳」を守る精神がなければ、予防などできない。

ある会社では、上司が特定の女性社員ばかり甘やかして可愛がるのは不快だと、部下が人事部にクレームを入れてきたという。

「あの子はすぐ寿退社しちゃうから、覚えなくていい」

――製造業の人事です。入社2年目の営業アシスタントA子さんが相談にやってきました。上司の営業部長が職場でハラスメントをしているというのです。

どんな嫌がらせをしたのかと聴いてみると、A子さんは「可愛いコばっかりひいきするのは、おかしすぎます」と涙目で訴えてきました。

A子さんによると、同じアシスタントで同期入社のB子さんが先日、見積書の金額を間違えてトラブルになりました。お客さまに謝罪に行くなど大騒ぎになったのですが、部長は、

「間違えたって、しょうがないよね〜。B子ちゃん、分かんなかったんだからさ」

と慰めていたそうです。また、B子さんが担当した顧客で製品トラブルが起き、品質管理部門とのやりとりに苦労しているときも、

「オレから品管の部長に言っておくから、B子ちゃんは次の仕事をやっておいてね」

と優しく言っていました。前任の上司に仕事を厳しく仕込まれたA子さんは、こんな甘いやり方ではB子さんのためにならないと思い、「自分でやらせないと仕事を覚えませんよ」と忠告すると、部長は、

「彼女はそんなの覚えなくていいんだよ。あの子はカワイイからね〜。すぐ寿退社しちゃうだろうしさ〜」

と笑っていたそうです。

A子さんは「私の前で『あの子はカワイイ』とか当てつけですか? B子は部長の好みなんだろうけど、これで仕事の評価が私と同じなんて不公平です!」と怒っています。本当に何かのハラスメントになるんでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
「不公平・不当な評価」はパワハラになる可能性がある

部長が行っていることは、厚労省WGのパワハラの行為類型には入っていませんが、「職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的苦痛を与える」ことにつながるので、パワハラになるおそれがあるのではないでしょうか。問題は、仕事ができるA子さんとできないB子さんを、同じ評価で処遇していることです。業績評価が恣意的で、著しく不公平と捉えられるおそれがあります。

東京大学などが作成した「アカデミック・ハラスメント防止ガイドライン作成のための提言」では、「就労上の権利の侵害や業務の妨害」行為のひとつとして「業務に関して著しく不公平・不当な評価を行う」ことをあげています。A子さんへの低すぎる評価だけでなく、B子さんに高すぎる評価を与えることも不公平な評価に該当するので、問題になる可能性があるのではないでしょうか。また、「あの子はカワイイから」発言や「ちゃん」付けはセクハラと指摘されるおそれがありますのでやめさせた方がよいと思います。

臨床心理士・尾崎健一の視点
その人のタイプにあったアプローチをすることは悪くない

以前、B子さんの立場の人から相談を受けたことがありますが、職場で上司からあからさまにひいきされることは、本人にとってもいいことばかりではないといいます。同性の先輩から反感を買ったり、男性たちからは好奇の目で見られたりすることもあり、人間関係に亀裂が入り孤立するきっかけになったりします。「なぜ自分にだけ甘いのか」と不快に感じるような場合には、パワハラの行為類型の「過小な要求」に該当するかもしれません。

人事部としては、現場の業績評価がバランスよく行われているかどうか確認し、調整したり問題を解決したりする責任があるでしょう。ただ、念頭におきたいのは、現場における人のマネジメントをする上では、その人のタイプにあったアプローチを取る必要があるということです。ミスの多さが評価にまったく反映されないとすれば問題ですが、ほめられて覚える人と、叱られて覚える人で対応を使い分けること自体は悪くないことだと思います。



(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。