“ネスカフェ”を世代を超えて幅広く愛されるブランドに

ビジネスパーソン研究FILE Vol.161

ネスレ日本株式会社 島川基さん

「ネスカフェ エクセラ」のマーケティング担当の島川基さん


■営業現場で周りを巻き込む力、目的を意識した仕事の進め方を身につけた

「将来はマーケティングに携わり、品質に対する意識の高い日本人のお客さまに満足していただけるような製品を生み出し、それを海外に送り出したい」という思いを抱いてネスレ日本に入社した島川さん。「マーケティングで活躍するためには、製品が売られている現場であるスーパーやコンビニなどの顧客や消費者のニーズを自ら知ることが不可欠」という同社の方針のもと、入社後は東京支社関東第二支店(旧千葉営業所)にて、地元の小売店や卸店数十社への営業を担当。そこで携わったプロジェクトが、島川さんにとって大きな経験となった。
「2年目に、支社内の同期8人に対して、支社長から『支社の社員全員を巻き込むプロジェクトを立ち上げろ』と指示を受けたのです。僕たちが設定したのは、『ソリュブル(インスタント)コーヒー以外の売り上げ構成比を全国No.1にする』という目標。当社はインスタントコーヒーの販売は国内トップクラスのシェアがありますが、それが逆に『ネスレはコーヒーの会社』というイメージをお客さまの中に作ってしまい、調味料の『マギー』や麦芽飲料『ミロ』などの販売が十分ではなく、われわれ営業の力でさらに伸ばせないかと考えました」

注力製品と指標を決め、月別・チーム別の目標を設定して支社全体に協力を仰いだが、当初はあまり協力を得られず、人を巻き込む難しさを痛感したという。
「同じ営業担当でも、人によって価値観や考え方に違いがあることに気づかされました。そこで、こちらからお願いして回るのではなく、先輩たちの考えを引き出すようにしたのです。具体的には、先輩たちの営業に対する思いや意識、取り組み事例などをヒアリングし、メールマガジンとしてプロジェクトの進捗や売り上げ実績と併せて配信しました」

そうするうちに「今月は頑張って『ミロ』を売ってきたよ」などの言葉をかけてもらえるように。東京支社が注力しようと決めた製品は全国で1〜2番目の販売の伸びを示すこともできた。
「自分がやりたいことを一方的に伝えても人は動くものではなく、考え方や価値観の違いを認識した上で、相手と同じ意識を共有することの大切さを学びました」
5年目には東京支社営業企画部に異動となり、支社内の営業戦略の立案や販売指針を浸透させるサポートを担った。このとき島川さんの視点をもう一段大きくしたのが、新たなプロジェクトへの参加だった。8年目に、より効果的・効率的な営業活動を推進するため、仕事の進め方や組織のあり方をゼロベースで考えるというプロジェクトのメンバーに選ばれたのだ。
「ゼロから必要なものと不要なものを議論すると、既存のものをベースに改善策を考えていては出てこない案が出てきたり、実際にやってみると『今までなんでこんなに無駄なことをしていたのだろう?』と思えるようなことも出てきたのです。それまで営業企画の仕事を、いくつかの製品を営業方針に基づいてどのように売っていくか、パズルのように考えてしまっていた部分がありました。しかし、このプロジェクトを通して、物事をゼロから考えることや、目的とゴールが何かを把握し、そこに仕事の判断基準を置くことを意識するようになりましたね」


■マーケティング担当に着任して半年でキャンペーンを成功に導く

プロジェクトでの議論の結果、営業組織が再編され、島川さんは神戸にある本社に新しく発足した営業本部企画開発部に異動。年間・半期レベルでの営業戦略の立案を担う部署で、物事を中長期で捉え、実行計画を立てていく仕事の進め方を磨いた。

そして10年目の2011年8月、念願のマーケティング担当に。任されたのはソリュブルコーヒーで国内トップクラスのシェアを誇る「ネスカフェ」の主力ブランド「ネスカフェエクセラ」。当初はやるべき仕事の多さに驚いたという。
「広報や媒体、製造、パッケージ、Web、サプライチェーンなど、関係する部署が圧倒的に増えたものの、部署間で丹念に情報共有できているわけではありませんでした。関係部署をコーディネーションするのがマーケティング担当の役割ですから当然のことですが、何から手をつけていいのかわからないくらいやるべき仕事が降り注いでくる部署だな、というのが最初の感想。でも、そこで役立ったのがこれまでの経験です。目的やゴールを把握し、案件の重要度や緊急度をふまえて、やるべきことに優先順位をつけることから始めたため、慌てずに業務に入ることができました」

その結果、異動と同時に任されたキャンペーンでも成功を収めることができた。2011年春から実施していた消費者参加型のキャンペーンにおいて、秋からの数カ月で一気に大きな反響を得ることに成功したのだ。
「消費者の方に投票で参加いただく仕組みのWebキャンペーンでしたが、夏までの投票状況はそれほど芳しくなく、キャンペーンを強化するために、PRの方向性から投票の促進方法まで、時間が限られている中で広告会社とPR戦略を詰めていきました。若年層の取り込みを主眼としたキャンペーンでしたので、どのアクションが一番ターゲット層に効果的・効率的かを繰り返し議論し、中間投票結果の発表を使ったニュースの創出や、1位になったレシピの製品化、キャンペーンキャラクターを務めてくださっているタレントさんによる記者会見など、告知機会となるニュースを企画してPRしていきました。限られた時間の中、多くの関係部署、取引先の多大なるサポートをいただくことができた結果、新規サイト訪問者が飛躍的に伸び投票数は100万票に近づくほどに。これまでソリュブルコーヒー、「ネスカフェ エクセラ」を知らなかった20〜30代の方々に興味を持ってもらうという目的も達成できたと思います」

異動からキャンペーンの再告知まで2カ月弱。目的を明確にし、やるべきことの優先順位をつけ、関係部署を巻き込んだ結果の成功だった。

そして現在、島川さんは、「ネスカフェエクセラ」をより多くの消費者に届けるための戦略を検討している。「マーケティングに携わるようになり、ビジョンの大切さを実感しています。ブランドを通して、どんなライフスタイルの方にどのように喜んでもらいたいのか? マーケティング担当者が明確に描いていなければ、次にどんな目的で何をやるべきかも見えてこず、周りを巻き込むこともできません。コーヒーは香りや味だけではなく、家族や友人と語らうそのひとときを通して、いつもの日常生活にささやかな喜びを届けてあげられる力を持っている飲み物だと思います。今後は、今『エクセラ』を飲んでくださっている方々だけでなく、世代を超えて若い人たちも含めた幅広い層の方々に飲んでいただき、より多くの消費者の方々を笑顔にできる、毎日を少しでも豊かなものにできるブランドにしていきたいと思います」