『ドラゴンボール』が世界中で愛される理由を心理学観点から解明

 子どもの頃、夢中になった人も多い少年漫画『ドラゴンボール』。昨年『Vジャンプ』にて、スピンオフ作品『ドラゴンボール エピソード オブ バーダック』が掲載され、日本国内でも今もなお人気を誇っています。その人気は世界中に広がり、アニメは40カ国以上で放映、2009年にはハリウッドで実写映画化もされました。今回は、ドラゴンボールが世界中で愛される理由を、エンタメにも詳しい心理学者の内藤誼人(ないとうよしひと)先生にお聞きしました。

キーワードはノスタルジック



「登場人物の魅力、ストーリーの魅力など、さまざま点が挙げられると思いますが、私が注目するのは舞台設定です。『ドラゴンボール』はバトルマンガですが、西遊記をモデルにしているとあって背景には山並みが広がり、主人公が着ているのは武道の道着、初期の戦い方は素手と古典的な要素が多くありませんか? こうしたノスタルジックなもの、懐かしさを感じられるものが、人をひきつけるのです」(内藤先生)





 ノスタルジック!! 舞台設定が過去のものだと、既に人類が経験したものなので、読者は主人公の気持ちや生きている世界をイメージしやすいということなのでしょうか。





「恐らくそうだと思います。実際に、心理学的な研究でも人間はノスタルジックなものにひかれることが実証されています。ワシントン大学のダレル・ミューリングが、コダック社の広告をノスタルジックなもの(例えば草原や自然の写真を使った広告)とノスタルジックではないもの(例えばビル街の写真を使った広告)の二つの種類に分け、被験者159人(大学生)にどちらが良い広告だと思うか調査しました。すると、ノスタルジックな広告の方が評価は高かったのです。舞台が宇宙など近未来的な設定だったら、『ドラゴンボール』はここまでヒットしなかったのではないでしょうか」(内藤先生)





人気マンガの共通点は舞台設定にアリ



 内藤先生によると、今の人気マンガやゲームの多くが、こうしたノスタルジックな点を持ち合わせているそうです。





「今、最も売れているマンガの一つ、『ONE PIECE』の世界は16世紀〜18世紀頃の大航海時代がモデルと言われています。大ヒットゲームの『ドラゴンクエスト』も主人公は伝説の勇者。竜王にさらわれた姫をお城から救い出すというストーリーでしたね。舞台設定がノスタルジックなものの方が、主人公がどんなことを考えているのかイメージしやすく、主人公に感情移入もしやすいのだと思います」(内藤先生)。





 確かに、未来や宇宙を舞台にした映画やアニメも多数ありますが、その世界は作者の想像でしかありません。ノスタルジックなものに比べ、主人公の気持ちを追体験しにくいのかも!? また、ノスタルジックなものが人気な理由として、内藤先生はこんなお話もしてくれました。





「東京ディズニーランドで、最もアトラクションの入れ替えやリニューアルが多いのが実はトゥモローランドなんです。他のエリアより飽きられるのが早いのでしょう。一方、ウエスタンランドやアドベンチャーランドには開園当初からある人気アトラクションが多いんです」(内藤先生)





 トゥモローランドの世界は「未来の国」をテーマにしているので、常に最新の技術やテーマが求められるため、アトラクションの入れ替えが必要なのでしょう。ということは、マンガの世界も同じ。未来を舞台してしまうと、その世界がいつか色あせて見えてしまうリスクがあるのかもしれませんね。やっぱり長く愛される作品には、ノスタルジックな世界を設定するのが良いようです。





文●ペンダコ