「死者・行方不明者2万人」の真相を明らかにしたい。その強い思いを持って、震災直後から20回以上も被災地を訪れている、ジャーナリストの吉田典史氏。被災地に入り、遺族や被災者だけでなく、検死医、精神科医、防災学者、地震学者、警察、消防、海上保安庁、自衛隊、さらには市長、町長、国会議員などに取材し、多方面から大震災を分析しています。

 吉田氏は「油断があったのか」という質問を、これまで数百人にしてきたといいます。遺族の8割ほどは、「意識に問題があった」「津波をなめていた」と答えた反面、家族が無事で「家がない」「車がない」という人が「意識に問題があった」と答えるのは3割ほどにとどまったそう。

 いま、震災発生1年を迎えるにあたって、吉田氏は日本国民のなかに流れる、「無責任で無邪気な空気」について懸念しています。

 「無責任で無邪気な空気」とはなにか。吉田氏は、11月下旬に東北新幹線のある駅前の喫茶店で嫌な噂を聞きました。そこの主人や客に「陸前高田市に向かう」と話したところ、「夜あの市内を歩く際には注意した方がいい。海岸沿いのホテル跡地には、亡くなった人の霊がたくさん集まる」と忠告されたのです。

 そして、このようなことは、陸前高田市だけではなく、全校児童の7割が亡くなった大川小学校(石巻市)、南三陸町、女川町、気仙沼市、釜石市、宮古市などでも、被災者やボランティアとして都内などから訪れた人から、同じような話を聞いたというのです。そのほとんどが、震災の影響を大きく受けていない人ばかり。

 「その中に遺族はまずいない。本当の弱者は"無邪気"に戯れている場合ではないのだろう。同じ被災者でも、遺族と家族が無事な人との間には意識の隔たりがある」(吉田氏)

 震災がやや落ち着いてきたころ、「自然災害に罪人はいない。遺族が学校などを訴えるのはおかしい」といった論調が、私たちの耳にも聞こえるようになりました。このことで、吉田氏はある遺族を思い出すといいます。石巻市に住む親は、「あの子が津波で死んだのか、地震で死んだのか、それすらわからない」。そして、学校に「震災当日の真相を教えて欲しい」と懇願しているそうです。しかし、学校側は説明は終えたと取り合わない。よって、真相解明のため、不本意ながら学校と法的に争うことを考えるのです。そこで、これらの状況を知らない人たちが、先ほどの言葉を言い始めると......。

 「自然災害に罪人はいない」と口にする人の多くが、実際に遺族に接したことがなく、現場も知らないのではないでしょうか。こういった「無邪気な空気」は、それを漂わせる人が集まると「無責任で冷酷」な空気になると吉田氏はいいます。そして、結果的には遺族を傷つけるのです。

 また、「世の中の多くの見識がある人は、このような空気を漂わせる人を冷めた目で見る。皮肉なことに、その無関心さが『無邪気』な空気を強くしていく。それが世論になるときがある」と指摘します。

 あれからちょうど1年になり、いま、改めて震災を語ることがあると思います。その時に「無責任で無邪気な空気」を発していないか、私たちは十分注意する必要があるのではないでしょうか。遺族に自分を重ね、本当に欲している「空気」とは何なのか、一度よく考えなければなりません。



『東日本大震災から1年、「無責任で無邪気な空気」に心当たりは?』
 著者:
 出版社:ダイヤモンド社
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