『悪者見参』(集英社)、『オシムの言葉』(集英社インターナショナル)などで知られるジャーナリスト木村元彦氏が、昨年末『争うは本意ならねど』(集英社インターナショナル)を上梓した。

現在FC琉球でプレーする、元日本代表FW我那覇和樹のドーピング冤罪事件の真相を克明に描いたノンフィクションだ。我那覇はドーピング違反者ではなく、完全なる冤罪、100%のシロであった。実は無実と分かっていながらにんにく注射に対する嫌悪感から見せしめに冤罪をでっち上げたのではないかとチームドクターに指摘されているのは、サッカー協会の医学委員長であった。

JADA(日本アンチドーピング機構)やWADA(国際アンチドーピング機構)からも我那覇は潔白だとの文書が次々に上がって来たにも関わらず、自らの保身のためにWADAの規定の解釈を曲げ、論理をすり替え、一人の選手の人生に狂いを生じさせ、そしてサッカーそのものを冒涜したのだった。

そしてサッカー協会やJリーグのトップもドーピング問題の本質に向き合おうとせず、ただ自分たちのメンツを守るために切実な医療現場からの声を無視し、日本スポーツ仲裁機構での仲裁を逃げた。あげくCAS(国際スポーツ仲裁裁判所)から潔白の裁定が出た後もあたかも我那覇がグレーであったかのようなリリースを出して謝罪すらしなかった。

事件は義憤に駆られた各チームドクターたち、そして我那覇本人の勇気ある申し立てにより、冤罪であったことは証明された。彼らは無実を証明するために「争った」のではなく、ただひたすらにサッカーと向き合った。

この本を通して伝えたいこと、伝えなければならないこととは何か。木村氏に訊いた。(聞き手 刈部謙一)