この作品で第84回アカデミー賞主演女優賞を受賞したメリル・ストリープ。その時のスピーチで、"今、全米で半分以上の人たちが"冗談でしょ?なんで?彼女に?また?"と言ってると思うけど...。気にしないわ!"と、世界中で自分しか言えないジョークを飛ばして会場を沸かせていた。前哨戦と言われるゴールデン・グローブ賞も英国アカデミー賞も受賞していたので、アカデミー賞の受賞は予想通り。確かに「また〜?」とは思ったけれど、やっぱり納得の3度目の受賞。
マーガレット・サッチャー(メリル・ストリープ)元首相は86歳。夫・デニス(ジェームズ・ブロードベント)は他界、子供達は独立し、一人静かに余生を過ごしていた。マーガレットは認知症を発症しており、夫の遺品を整理しようと決心すると、彼が今でも彼女の幻想の中に登場する。現実と幻想の境界線がだんだんと曖昧になっていく中、自分の生涯を振り返る。小さな雑貨店を営む父が町民議会で演説する姿を見て政治家を志し、英国史上初の女性首相までのぼりつめた過去を。しかし、ある疑問が心をよぎる。いつも傍らで彼女を支えた夫は幸せだったのか?と...。

メリル・ストリープには役者として不可能な事がないように思える。元首相に激似なところばかりが注目されるけど、似ていようがいまいが、その役が著名なカリスマ政治家だろうがなかろうが、そんなことはもはや超越している。他の俳優には絶対に真似できないリアリティの追求と独自性のお陰で、世界中の高い期待に応える重圧も難なくクリア。まさに国宝級の演技だ。

女性として、メリル/サッチャー元首相が政界を牛耳っていく姿は観ていて気持ちが良い。英国の政界は男性優位社会の最たる場所で、男同士の調整や妥協等といった悪しき習慣の弊害により政治や経済の停滞は長引く。そんな中、彼女は雑貨屋の娘である出自を蔑まれながらも、自分の信念だけで改革を実行し、政界に風穴を開ける。アメリカを模した新自由主義を信望するも、我が道を行き過ぎ、部下に謀反を起こされ、国民からも痛烈に批判される。それでも11年という長期政権を維持した鉄の女の栄光と挫折が丁寧に描かれている。特に印象深いのはフォークランド紛争のエピソードだ。"女は毎日闘っているのよ"と啖呵を切る元首相に、クサい台詞ながらも「そのとおり」と頷くことしきり。

だからこそ、あれほど聡明で強い人間が孤独や認知症と闘う姿には胸が痛む。薄れゆく記憶の中で、過去への愛着と後悔に苛まれる様子は、度合いこそあれ誰もが直面すること。なんだか考えさせられてしまった。

メリル・ストリープの演技に頼りすぎていて、映画としてはありふれた展開。過去と現在が交錯する手法もわかりにくいし、サッチャー元首相に対するその感傷的なアプローチに、英国では異を唱える人も少なくなかったようだ。でも、とにかくメリル・ストリープの演技は絶対に観た方がいい。

(★★★1/2☆)

−アメリカの著名な映画情報・批評まとめサイト「ロッテン・トマト」では:54点

3月16日(金)TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー。