顧客の要求性能に応えるコーティング用樹脂を開発する

WOMAN’S CAREER Vol.80

三井化学株式会社 末永真子さん

【活躍する女性社員】高分子材料の開発を担当するワーキングマザー末永さん


■高分子材料の開発・製造を究めていきたい

「研究と営業は分かれているというイメージを抱いていたので、研究員にも顧客とのコミュニケーションが求められるとは思いませんでした」

そう話す末永さんが担当しているのは、電化製品や携帯電話などの電気・電子機器、自動車、包装材などに用いられるコーティング材の材料となる樹脂の開発。営業担当が塗料メーカーや配合メーカーから入手したニーズをもとに、顧客の重要度や市場動向をふまえて開発方針を決めることから始め、開発したサンプルを顧客に提供し、顧客がほかの材料と組み合わせて評価した結果をフィードバックしてもらいながら改良を重ねる。

その改良を重ねる過程で、営業に同行して顧客の技術的なニーズを聞き出し、性能に反映させることが求められるのだ。ニーズに合う自社既存品がない場合、顧客評価用のサンプルを作るまでに1〜2年、そこからさらに短くて3年、開発初期のコンセプトが変更となれば10年近くかけて改良を重ね、製品は市場に出る。
「当社が提供する製品には、コーティング材を塗る基材への密着性はもちろん、耐傷付き性、耐水性、耐油性などさまざまな性能を発揮することが求められます。そこで、試験結果から見えてくる課題だけではなく、われわれの顧客やさらに先の顧客、例えば最終製品メーカーがどの性能を最も重視しているのかなどを聞き出す必要があります。コーティング材には当社の樹脂だけでなく、顔料や溶剤、添加剤も配合されますので、ほかにどのような材料が配合され、互いにどんな影響を与えるのかも把握しなければなりません。さらに、具体的な用途を開示してもらえない場合は、会話の中から手探りで用途を想定することも。顧客の使用材料・組成と当社が提供するサンプル組成のいずれもが機密事項ですので、核心部分には触れられない中、どのようにヒントとなる情報を引き出すか。異動した当初は戸惑いました」

末永さんは、社内のマーケティング研修や上司と顧客との打ち合わせの様子から情報の引き出し方を学ぶとともに、顧客と密に連絡をとってコミュニケーションを図るなど、工夫を重ねた。それでも、顧客の声をつかみきれなかったことも。入社8年目、期待していたコンペに勝てず、製品を市場に出す機会を逃したのだ。
「当社が提供する樹脂が採用されるかどうかは、われわれの顧客がさらに先の顧客である最終製品メーカーのコンペで勝てるかどうかで決まります。当時、5年以上かけて開発を進めていた当社の樹脂が一原料となるコーティング材がある顧客から高く評価され、最終コンペの直前段階で1位の評価をもらっていると聞いていました。それにもかかわらず、結果は不採用に。1位という情報に安心してしまい、最終製品メーカーが感じている課題や問題点を顧客から聞き出せず、より最終製品メーカーが求める性能に近づける改良ができていなかったのです」

このときの反省も生かし、末永さんは現在、2013年に市場に出す予定の樹脂の開発を進めている。採用されれば、末永さんがゼロから手がけた開発品の中で初めて市場に出る製品になる。
「今は処方が決まり、顧客で採用に向けたさまざまな使用状況を想定した性能評価および長期安定性試験に入っている段階です。わざと光劣化させたり、衝撃を与えるなど、負荷をかけた状態による密着性低下がないかを確認したり、長期保存後も各性能が発現するかどうかを確認する試験が行われていますが、結果によってはコーティング材そのものの配合や使用する原料が変更になることもあります。そうなると性能に狂いが出てくるので、当社の樹脂もさらに改良しなければなりません。最終的に顧客の要求性能に応えられるコーティング材となるよう、月に1度は顧客を訪問して試験の状況を確認するなど、抜かりのない情報収集を心がけています」

当初は戸惑った顧客とのコミュニケーションも、今ではやりがいの一つ。今後はさらに今の分野で知識を広げたいと考えているという。
「自分が開発した樹脂の用途が見えた方が、モチベーションが上がることに気づきました。さらに、研究が決めた処方をもとに製造現場が製造プロセスに合わせた処方を検討する際にもサポートに入るなど、研究・販売・製造のすべての工程にかかわれることにもやりがいを感じています。研究側が作る処方と、製造現場で最終的に作られる処方はまったく異なります。量産に向けた処方検討は学生時代には経験できなかったことですし、それを実感したいからこそ民間企業を選んだという側面もあるので、将来は製造現場にかかわり、知識をさらに広げていきたいですね」

プライベートでは2年目に結婚し、5年目に長女を出産。自身の経験から、仕事と子育てを両立するには、仕事に対するスタンスを周りに伝えることが大事だと考えている。
「一人で仕事をしているわけではないので、仕事をどのくらいセーブしたいのか、残業可能かどうかなど、自分の考えを周りに理解してもらわなければ、上司や同僚もどのように仕事のスケジュールを組めばいいのかわからず、協力も得られません。育児のために仕事をセーブすることが少なからずあると思うので、思い切り仕事をやりたくてもできないと葛藤を一人で抱え込まないためにも、『自分はどうしたいのか』ということを考え、伝えることが大事だと思います」