本日は西部謙司メールマガジンさまから特別寄稿として、西部氏が過去にインタビューしたジーコ氏の回顧録を掲載いたします。

 現役時代は「白いペレ」としてブラジル代表の英雄となり、晩年には鹿島アントラーズに加入しJリーグブームの立役者に。総監督・監督としても鹿島に多大な貢献をし、2002年から2006年まで日本代表監督、その後はフェネルバフチェ(トルコ)、CSKAモスクワ(ロシア)などの監督を歴任したジーコ氏。

 日本のサッカーファンにとっては甘美で、時に苦味も伴う数々の思い出を残してくれた偉人。まさに、砂糖を入れたコーヒーのような後味を残したジーコ氏について、西部氏はどのような印象を抱いているのでしょうか?




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インタビューの裏道
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〜VOL.1 ジーコ〜
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インタビューを行った方々の横顔やこぼれ話、印象について。


◇◆デレオンも恐縮◇◆
 ジーコのインタビューは2回行っています。最初は住友金属時代で、東芝でプレーしていたウルグアイ人DF、ウーゴ・デレオンとの対談という企画でした。Jリーグ開幕前ですから、確か92年だったと思います。ジーコと同席ということで、デレオンがやたらと恐縮していたのを覚えています。デレオンはブラジルのグレミオのスターで、ウルグアイ代表のキャプテンでしたから、けっこうなスター選手だったのですが、ジーコとはずいぶん格が違っていたようです。2回目は日本代表監督のときで、ドイツW杯の予選が始まったころと記憶しています。

 ブラジルのスーパースターなのですが、一般的なブラジル人のイメージとはかなり違っていましたね。ブラジル人らしい面もあるのですが、すごく几帳面なんです。一番印象的だったのは、コーヒーの飲み方でした。代表監督時代のインタビューのとき、途中でコーヒーが運ばれてきた。ジーコは慎重に砂糖を入れます。自分の好みの分量が決まっているみたいで、スティックの7分目か8分目に区切りを入れて砂糖を注入。その後、スプーンでグルグルグルグル、ずーっとかき回していました。もう、完全に溶けてなくなるまで執拗にかき混ぜていた。あんまり一生懸命にかき混ぜているので、妙におかしかったのを覚えています。あんなに全力でコーヒーを飲む人を他に知りません(笑)。

 インタビューの冒頭で、「ブラジルとドイツはW杯予選で負けていない国ですが・・」という質問をしたところ、ジーコ監督は「確かドイツは予選で負けているはずだ」と指摘しました。質問の趣旨は別のところにあり、ブラジルとドイツうんぬんは話の枕のようなものだったのですが、些細な間違いも放っておけない性格のようでした。そうかといってべつに意地悪でもなく、質問者を動揺させようという意図もない。これは試合後の記者会見でもよくあったことなのですが、けっこう質問の本筋とは関係のないことまで丁寧に回答する。ある意味、質問に対して几帳面に答えてくれているわけで、質問をちゃんと聞いてくれていた。とはいえ、重箱の隅ではありませんが、正直どうでもいいことまで聞き流さないで回答するので、ちょっと面倒くさいというか、かえって質問と回答が噛み合わないようなときもありましたね。


◇◆スター選手の共通点◇◆
 質問をはぐらかしたり、意図を察したうえで膨らましたりといったことがあまりなくて、聞かれたことにそのまま答えていた印象です。その点は即物的というか、シンプルでストレートでした。
 あと、これはジーコに限らずスター選手にほぼ共通することなのですが、とても自然体です。偉ぶったところは全くない。自分を大きくみせようとか、そういう不自然なところも全然ありません。その必要がないからでしょう。
 インタビューではありませんが、鹿島アントラーズのクラブハウスで偶然ジーコに会ったことがあります。鹿島のTDだったころで、クラブハウスの窓からチームの練習を眺めていました。冬の寒い日でした。プレスルームに温かい缶コーヒーがあったので、ジーコにも持っていってあげたのですが、熱心に練習を見ていたのでコーヒーを渡すタイミングが見つからず、その後用事があったので席を外し、しばらくして戻ると、ジーコが缶コーヒーを持っていて、「忘れ物だよ」と注意されてしまいました(笑)。

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1. あいさつ(余裕があれば宮市の起用も)
2. 犬の生活情報(VOL.7 ちばぎんカップ)
3. 欧州サッカーメモ(パリは燃えているか)
4. インタビューの裏道(VOL.11 ボビー・チャールトン)
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