「本屋大賞2012年」ノミネート作の一つに高野和明氏の『ジェノサイド』が選ばれました。すでに「このミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト10」でそれぞれ1位を獲得。山田風太郎賞も受賞し、2011年を代表するミステリーとなりました。なぜ、これほどまでに多くの人の支持を集めるのか。それは、単なるフィクションの枠を超えた小説だからです。

 大学院生の古賀研人に5日前に急死した父親からメールが届きます。それは、とあるアパートへ行き、1か月で新薬を創出しろという指示。そして、誰にも渡すなと、研人の手に2台のノートパソコンが託されます。

 一方、アメリカ人のイエーガーは、政府の秘密任務を遂行すべく、ほかの3人の傭兵とともにアフリカのコンゴに送り込まれます。知らされたのは、「新種のウイルスに罹患した部族を殲滅しろ。そして、見たことのない生き物に遭遇したら真っ先に殺せ」ということのみ。

 日本とコンゴ、遠く離れた二人は、本当の目的を知らされず、疑心暗鬼のまま、大きな渦に巻き込まれていきます。次第に、研人は父親のやり遂げたかったことを、イエーガーは本当のアメリカ政府の目的を知り、自分の意思で目的を達成するために動きはじめます。政府という巨大組織が繰り出す捨て身の妨害作戦をかいくぐり、日本とコンゴをつなぐネット通信を使った協力体制で、命がけで彼らの陰謀に立ち向うのです。

 平和ぼけした日本と、今なお民族間の戦闘が激しいコンゴをネットという線で、リアルタイムで結ぶというスケールの大きさは圧巻。研人と同様、いつの間にか世界の命運を自分の手に握ってしまった緊迫感を、読者ももたざるをえない状況になります。

 本作は、寝る間も惜しんで読みたくなるエンタテイメント作品。しかし、それだけではないのがこの作品のすごいところ。著者の周到な取材に基づいて描かれたリアルは、今までの価値観を揺るがすような問題提起さえ、私たちの目の前に示します。

 たとえば、コンピュータに制御された世界は本当に安全なのか? 大義名分のもと、いまだに戦争やジェノサイド(大量虐殺)を行っている人間は、本当に高等動物といえるのか? 人間が突然変異によって誕生したように、人間の知能をはるかに上回る新種の生物が生まれる可能性があるのではないか? そのとき私たち人間はどう対応するのか?

 目を背けたくなる現実もありますが、研人が真実を知ることで成長したように、真実を知らなければ正しい道へは進めないのかもしれない......。平和の裏に隠された現代社会の危機を考えずにはいられなくなる、壮大な小説でもあるのです。



『「本屋大賞」の大本命か 受賞多数のミステリー&エンタメ小説『ジェノサイド』』
 著者:
 出版社:角川書店
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