経済評論家の森永卓郎氏は「貯蓄税」に関して、こう話す。

「日本でも1953年まで『富裕税』がありました。でも、なじまないということで廃止されました。『貯蓄税』というのは、世界初の試みになるのですが、橋下さんはいつも具体的なことを言わない。税率がどの程度なのか、貯蓄額に応じて累進課税にするのか何もわからない。たぶん、インフレ政策とセットで行うことを想定しているんだと思います。そうでないと、お金を使う人は現れません」

 橋下氏が言う「あの世に金は持っていけない」という思想。この最たる例が公約で提唱している「掛け捨て年金」だろう。

 要は資産を持っている高齢者や高額所得者には、年金保険料を払ってもらうけど、年金は支給しないということだ。

 持たざる者にしてみると、つい、賛同したくなる。

 しかし、政治部デスクが問題点をこう指摘する。

「高齢化社会の日本で、労働意欲があって、まだまだ働ける高齢者は貴重な労働力ですが、その人たちが働かなくなるでしょう。さらに、年金を脱退することはできないけど、年金保険料を払わない人も増える。ただでさえ、年金制度は穴だらけで、その穴を必死に手で押さえている状態なのに、『掛け捨て制』が採られたら、一気に国民皆年金制度は崩壊してしまいます」

 そんな不公平感を解消すべく、橋下氏は現在の若い世代が高齢者を支えるという年金制度の変更も主張している。自分が積み立てた分を老後にもらうという方式に改めるというのだ。

 前出・森永氏はバッサリ斬り捨てる。

「実現性に疑いもありますが、その改革には30年以上の時間が必要です。もっとも、現在の厚生年金は高所得の高齢者の支給額が減らされています。さらに、厚労省は基礎年金部分でも、高所得者の支給額を減らすことを検討し始めています。『掛け捨て年金』なるものに、目新しさは感じません」

「船中八策」は内容だけでなく、実現性にも首をかしげる点が多い。

「橋下さんの政策の基本理念は『弱肉強食』です。地方交付税の廃止が典型例です。だって、税収豊かな大都市を抱えてない地域はどうにでもなれということでしょう。セーフティネットとしてベーシック・インカム(負の所得税)も公約に掲げていますね。これは、生活保護のように車を持てないなどの条件もなく、低所得者からは所得税を取るのではなく、政府が所得を与えるという仕組みです。しかし、小泉構造改革を思い出してください。『セーフティネットを用意する』と言ったまま、何も用意されなかった。橋下さんも言っているだけで、何もしないと思います」(前出・森永氏)