キャリアアップを目指す時、価値の高い資格の取得は一つの近道となります。しかし、社会人として仕事をこなしながらの資格取得となると、勉強時間を確保するだけでも大変。  
 しかも資格試験は結果が全て。合格できなければ、1分も勉強しなかった人と同じです。限られた時間の中で、確実に成果を出すには、どうすればよいのでしょうか。
 『7人家族の主婦で1日3時間しか使えなかった私が知識ゼロから難関資格に合格した方法』(中経出版/刊)の著者で税理士の原尚美さんにお話を伺いました。今回は後編です。


―本書のなかで、「試験合格に向けた期限付きの目標を設定しない」ということをおっしゃっていましたが、その場合自分がきちんと合格に近づいているかどうかをどのように確認すればいいでしょうか。

原「私の場合、予習をしない代わりに徹底的に復習をしました。専門学校の授業が終わるまでの間に、情報を全てインプットするのが大前提です。授業中、ノートは一切取らず、テキストと先生の話に集中します。先生が大事だと言ったところと、自分で大事だと思った箇所にはテキストにマーカーするんですね。それで、家に帰ってマーカーの箇所だけ見直します。
次の日に問題集を解いてみて、できなかった問題はページの左に付箋を貼っておいて、二週間後にもう一度やるんです。どうして2週間後がいいかというと、あまり早いと、前回の答えそのものをまだ覚えているんですね。2週間だと答えは忘れているけれど、考え方は覚えているぎりぎりなんです。2週間後に解けたら付箋を下に移します。最終的に付箋が全部ページの下についたら、その問題集の内容は頭に入ったということ。問題集の下の付箋を全部はがすのって、ちょっとした達成感を味わえるんですよ!
難しくて手に負えない問題は、問題集の右上に貼ったり、できたんだけど基本的な問題はページの上に貼る、できたんだけど他の問題と関連づけたい問題はページの右下に貼るなど、付箋の使い方を工夫していました」

―ノートを取らないというのは珍しい勉強の仕方ですね。

原「高校1年のとき、先生の話はほとんど全部、テキストに書いてあることに気が付いてから、授業のノートも取りませんでしたし、間違いノートも作りませんでしたね。テキストと問題集だけで大学受験もやりました。それだけで実際に合格できますよ。テキストに書いてない情報だけを、テキストの余白に直接書き込んでいましたが、当時のテキストを久しぶりに見返しても、書きこんである箇所はほんの少しなので、自分でもびっくりしました(笑)」

―税理士の試験と大学受験ではどちらが勉強しましたか?

原「じつは私、子供のころ家で勉強すると親に怒られていたんです。親は私を音大にいれたくて、毎日6時間ピアノのおけいこをしていたからです。だから勉強は、学校でしかできませんでした。でも私は音大ではなく、普通の大学に行きたかった。だから授業中にならったことは、授業中に全部あたまにインプットしなくちゃ、と必死だったんです。ノートを取らない効率的な勉強法が身についたのは、そのおかげだと思います。」

―勉強の過程で多くの人が陥る落とし穴がありましたら教えていただければと思います。

原「独自のノートをつくったり、間違いノートを工夫して作る方がいらっしゃいますが、あれはただの作業にすぎません。ノートを作ることにいくら時間を費やしても、アウトプット力はつかないんです。でも長時間作業していると、それだけで勉強している気分になるんですよね。
勉強って、成果が見えにくいので、何のために勉強しているのか、ということがわからなくなると、続かないんですよね。社会人の方は特にそうだと思いますが、他の人が飲みに行ったり、デートしている時間に、勉強しなくちゃいけない。何のために自分はこんなにがんばっているんだろう、と嫌になって、心が折れてしまう人も多いと思います」

―原さんにもそういう時期はありましたか?

原「私は税理士資格を取るまでに4年かかっているんですけど、4年目はそんな感じになりました。1年目は何もわからないまま、外に出かけたい一心で勉強を始めて、やってみたらおもしろかった。2年目、3年目もノリノリで勉強自体が楽しかったです。でも4年目はマンネリ化して、何で勉強しているのか見えなくなっていた時期ではありましたね。
資格試験って途中でやめてしまったら、1分も勉強していない人と同じです。
そういう時は資格をとった後の自分を妄想していました。お金持ちになっているとか、バリバリ働いている自分とかを、お風呂に入りながら妄想するんです。妄想は目標じゃないから、実現しなくても心が折れないんです。しかも、私の持論ですが、妄想は実現するんですよ(笑)」

―原さんが資格試験の勉強で最も苦心したことは何ですか?

原「やっぱりモチベーションの維持ですね。いちどきっぱり止めようと思ったことがあります。一年目に受けた簿記論の試験がすごく難しかったんです。大問が3題という試験だったんですけど、2問解いたところで残り時間が5分くらいで、最後の問題はほぼ白紙で出しましたね。本試験の時は解く前に、時間配分と点数配分をして、見直しに徹底的に時間をかけるのですが、そんな余裕もなかったです。 試験が終わったあと、“ぜったい落ちた”と思って、家まで泣きながら帰りました。途中のデパ地下でお菓子をやけ買いして、これできっぱりあきらめようと思ったんです。うちに帰って、“素人の私が合格できるような試験じゃなかった”と夫に宣言しました。夫から“本当に不合格だったら、それからやめても遅くはないでしょ。”と言われなかったら、今の私はいませんでしたね・・・」

―税理士の試験に合格してから原さんの人生はどのように変わりましたか?

原「税理士になる前は、夫と出かけたり、共通の知人に会うと必ず“原先生の奥様”って呼ばれていたんですよ。銀行に行っても、生命保険の外交員の方から、自分の名前で呼ばれませんでした。でも試験に受かって仕事を始めたら、私が“原先生”って呼ばれるようになったんです。本当にうれしかったですね。そもそもは、自分のアイデンティティが欲しくて勉強を始めたわけですから」

―最後になりますが、時間をあまり長くとれないなかで資格試験合格を目指す方々にメッセージをお願いします。

原「勉強ってそんなに楽しいことではないし、なかなか成果が見えないし、辛いことの方が多いと思いですよね。でも続けている限りは、少しずつでも前進しているんです。
社会人の勉強はゴルフに似ていて、昨日の自分との戦いです。他の人のボールを追いかける必要はなくて、自分のペースで進めばいい。人に寄っては300ヤードくらい飛ばせる人もいれば、50ヤードしか飛ばせない人もいます。でも自分のボールとカップの位置さえ見失わなければ、いつかはカップインできるんです。
目標を達成するコツは、最後まであきらめないことです。だから夢を実現するまで、あきらめないで欲しいと思います」
(取材・記事/山田洋介)


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