国内の独立系投資顧問会社、AIJ投資顧問が企業年金から運用を受託していた約2000億円の大部分が消失していることが証券取引等監視委員会の検査で発覚した。

顧客の多くは建設業者や電気工事業者、運送業者ら地域の中小企業や業界団体がつくる総合型といわれる厚生年金基金で、アドバンテストや安川電機などの企業年金もあった、という。老後の暮らしのために貯えてきた年金が、減額されたり支払われない可能性も出てきた。

消失した年金は母体企業が負担するが…

金融庁によると、AIJは運用開始以来、最大で240%の高利回りを確保している、と顧客に説明してきたが、証券取引等監視委員会には「運用資産の状況について、顧客には説明できていないと回答している」(関東財務局)という。

AIJへの検査は現在も続いており、消失したとされる「2000億円の大部分」の年金資産が、市場環境の急変などによる運用の失敗なのか、顧客からの年金資産を流用したのかなど、金融商品取引法違反での刑事告発も視野に入れながら、毀損した経緯や資金の流れなどについて解明を急いでいる。

あわせて、金融庁は「(損失の有無など)不明な点はあるが、同社が長期にわたって高い運用収益を上げているとの虚偽の情報を顧客に伝え、実態を隠していた疑いがある」ことを理由に、2012年2月24日、AIJに1か月の業務停止を命じた。

一方、金融庁の業務停止命令を受けて、AIJに運用を委託した企業年金は当局が実態の解明を終えるまで、年金資産を引き出すことができなくなった。

また、AIJに投じた資金が多ければ、年金資産が大幅な含み損を抱える恐れもある。

消失した年金資産の「穴埋め」は、母体企業が負担することになる。顧客として名前があがったアドバンテストは、「AIJの顧客であることは事実ですが、現時点で正確な情報は把握していません。業績予想を修正する事由が判明した場合はすみやかに開示します」とコメントした。

また、安川電機企業年金基金は「AIJの商品を採用していますが、資産シェアは基金全体の2%未満であり、影響は軽微であると認識しています」という。

「基本的には自己責任です」

深刻なのは、中小企業が集まる総合型の厚生年金基金だ。経営に余裕のない中小企業が集まってつくる企業年金なのだから資金余力は乏しい。場合によっては、基金自体の運営が行き詰まる可能性すらある。

それでなくても、地域などの総合型の厚生年金基金は退職者の増加で年金支払額が膨らんでいる。これに新規加入者の減少と運用利回りの低下が加わり、年金資産の積み立て不足が深刻な悩みになっている。

AIJは「オプションの売りなどで大きな利益をあげる」と評判になっていたとされる。運用成績が低迷するなかで、企業年金がハイリターンを追求した可能性もないとはいえない。

本来であれば毀損など許されないはずの年金だが、運用規制はないのだろうか――。厚生労働省は企業年金の運用について、こう説明する。

1997年12月までは、年金資金は5割以上を国債・地方債などの安全性資産、3割以下を国内株式、3割以下を外国の株式や債券、2割以下を不動産と、「5・3・3・2規制」があった。しかし、「現在、運用規制はありません。あえていえば、企業年金にかかる法律で『分散投資義務』が定められていること」という。

また、「年金基金に運用担当理事を置くことになっているので、運用状況を知らないということはありません」と、運用リスクは把握できる仕組みになっていると強調する。もっとも、虚偽の報告を受けていたとしたら、「その限りではありません」。

一方、金融庁は一般論としながらも、「投資一任契約を結んでいる以上は基本的には自己責任です」と話す。