50人に1人が“自殺”リスクを持っている? 驚くべき日本の姿

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 春は別れと旅立ちの季節。しかし毎年3月は、日本では自殺者が急増する時期でもあります。内閣府は3月を「自殺対策強化月間」としてキャンペーンを展開していますが、今年1月、発表されたキャッチフレーズが「不謹慎」であるなどとして多くの人たちの怒りや批判を浴び、2月、岡田副総理が撤回するに至ったというニュースをご記憶の方もいるでしょう。
 警察庁発表の「自殺の概要資料」によれば、2010年の年間自殺者数は31,690人(確定数)。2011年の推計も3万人を超えています。1998年以降14年連続で3万人を超えたことになる、と言ってももうそれほど驚かないかもしれません。
 しかし、次の数字はどうでしょうか。

 「日本では50人に1人が自殺する」。

 そんなわけないじゃないか、と思う人がほとんどではないでしょうか。
 自殺にはもう1つ、厚生労働省による「人口動態統計」があります。こちらは日本人のみを対象とするなど、警察の数字よりはやや少なくなりますが、これによれば、2010年の年間自殺者数は29,524人。いずれにせよ年間約3万人が自殺するという事実に変わりはありません。そこから、普通に計算をしても「50人に1人」という数字は出てこないはずです。
 ところが、これを「1人の人が生涯の中で自殺によって亡くなるリスク」という視点で計算すると、50人に1人となるのです(*1)。

 医学博士の小田切陽一氏が執筆した『昭和30〜40年代生まれはなぜ自殺に向かうのか』(講談社+α新書)は、この衝撃的な事実を明らかにし、年齢、性別、地域、日照時間などさまざまなデータを通して日本人の自殺の実態に迫っていきます。

■一番危ない世代は?
 本書のタイトルは『昭和30〜40年代生まれはなぜ自殺に向かうのか』。これは、世代別自殺リスクのデータ分析から明らかになります。
 1995年から2009年にかけて、生誕年代別の自殺率の推移を見ていくと、1955年生まれ以降、すなわち昭和30年代以降の世代が高くなりつつあるのです。1995年のデータを見ると、昭和10年代生まれが最も自殺率が高く、昭和30年代生まれは現在ほど高くはありません。しかし、この15年間で昭和30年代、そして40年代生まれの自殺率が上昇。昭和10年代生まれが低下傾向を示したところで上回っているのです。

■自殺者に女性が少ない、その理由は?
 警察庁発表の「平成22年中における自殺の概要資料」によれば、男性の自殺者数は全体の70.3%を占めており、圧倒的に男性の方が自殺者が多いのですが、小田切氏はその裏にある「自殺企図者」のデータに注目し、自殺における男女差の実態を分析します。
 岩手県の高度救急究明センターに収容された自殺企図者285人の分析の結果、自殺企図によって収容されたのは、男性117人で女性が168人と女性の方が多かったのです。ただし、既遂者となると男性が24人、女性が19人と男性が多くなります。
 これは、男女で自殺手段に違いがあるからです。男性は「首つり」や「排気ガス」「焼身」など自殺完遂率の高い手段を選択することが多いのですが、女性は致命的になりにくい「大量服薬」の割合が高く、未遂に終わることが多いからだといいます。

■「職場」が人を自殺に向わせる?
 「うつ病」という言葉が一般的に定着し、現在では様々な「うつ病」の症状が指摘されていますが、「自殺」への経路の一つとして、職場であまりにも働きすぎた結果「うつ病」になってしまうケースがあります。
 NPO法人ライフリンクと東京大学のメンバーで構成された「自殺実態解析プロジェクトチーム」が、自殺に対する危機の進行度を数値化し、自殺の危険複合度を5.0としたところ、「うつ病」は3.9と、自殺の一歩手前にある重大な危機要因であることが明らかになりました。また、主な危機要因の中には職場環境の変化(1.8)、過労(1.9)、職場の人間関係(2.5)も含まれており、職場の中における不協和音が自殺に向かわせる要因であることが明らかになっています。

 では、こうした自殺に対してどのような予防対策が行われているのでしょうか。
 例えば「過労自殺」は長年日本が抱えてきた問題であり、「KAROSHI」はそのまま英単語になっています。近年になってようやく対策が本格化してきており、時間外や休日労働が一定基準を超えた労働者への、医師の面接指導を義務付けるなどの対策が取られています。
 また、市民運動の高まりから2006年に「自殺対策基本法」が施行され、社会に向けた啓発活動が柱の1つとなりました。しかし小田切氏は、1990年代から自殺問題に取り組んできた国連や欧米諸国と比べれば、日本の自殺問題への対応は遅いとし、「基本法」の成立で「ようやく近代福祉国家として、同じスタートラインに立つことができた」と述べています。

 『昭和30〜40年代生まれはなぜ自殺に向かうのか』にはこうした自殺の実態が膨大なデータを通して分析されています。そこにあるのは日本の自殺の真の姿であり、自殺者数だけでは知ることができない現状です。
 どうして人は自殺に向かうのか、どうすれば予防できるのか。その問いについて考える上で、重要な示唆と情報を私たちにもたらしてくれる一冊です。
(新刊JP編集部)

(*1)一人の人間がその一生のあいだに、ライフイベントに遭遇もしくは起因して生命を落としてしまうリスクについて確率的に表現したものを「生涯リスク」と呼ぶ。人間はいつか必ず何らかのライフイベントで死を迎えるが、その生涯リスクは100%。たとえば年間に約20人がハチに刺されて死亡しているが、仮に日本の人口を1億人、日本人の寿命を100年とした場合、計算式に当てはめると、P=20/1億×100=0.00002(0.002%)となる。つまり、5万人に1人はハチに刺されたことがきっかけで亡くなるということになる(ただし、多くの場合年齢や性別、体質などの条件によって確率の高低がある)。



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