先日来日したマーティン・スコセッシ監督。シリアスな作風の大御所といった印象が強いだけに、このファミリー向けのファンタジー映画をしかも3Dで監督、というのには驚いた。それに本年度アカデミー賞(R) 11部門ノミネート、その他ゴールデン・グローブ賞最優秀監督賞受賞をはじめ、全世界の映画祭で36部門受賞、128部門ノミネートと圧倒的な強さを見せている。全米の批評家達も大絶賛。この映画、いったい何がそんなにスゴイのか?

1930年代、パリ。ヒューゴ(エイサ・バターフィールド)は駅の時計台に隠れ、亡くなった父の遺した壊れた機械人形と暮らしていた。ある日彼は、玩具屋に忍び込み玩具を盗もうとするが、店主のジョルジュ(ベン・キングズレー)に見つかってしまう。ポケットの中身を出さないと公安官に突き出すという彼にヒューゴは、ガラクタと共に亡き父のノートをさし出す。ジョルジュはノートの中身を見ると顔色を変え、乱暴に取り上げる。ノートを取り返そうとジョルジュの後を追うヒューゴは、彼の養子イザベル(クロエ・グレース・モレッツ)と出会う。彼女は機械人形の修理に必要なハート形の鍵を持っていた。やがてヒューゴはこの機械人形に秘密が隠されていることを知り、皆の運命を変えてしまうような壮大な冒険に乗り出す。

見始めた瞬間から1930年代のパリにタイムスリップ、すぐに観客の心を掴む。冒頭部分、ほとんどセリフが無く、パリの街の俯瞰画から、駅の雑踏を抜けて、刳り貫かれた時計盤の数字の裏から外を覗くヒューゴの瞳に画が着地するという演出。で、ストーリーが始まるが、正直、序盤はこの後どんな方向で進むのかイマイチわからず、少し退屈した。可愛らしい孤児と、気難しい老人、それだけの映画は有象無象にある。ジェームズ・キャメロンも絶賛する美しい3D映像でも、話が面白く共感できなければ...。などと思っていたら、ああ、来た、その瞬間。



このジョルジュ、なのだ。彼は映画の黎明期に、今の3Dにも似た技術も含むあらゆる新しい技術を発明し、世界初の職業監督と言われた実在の人物、ジョルジュ・メリエス。第1次大戦後に破産し厳しい生活を強いられたようで、晩年は質素に暮らしていたという。このメリエスへのオマージュは、スコセッシ監督だからこそできること。過去を封印した老人が、ヒューゴ少年によって自分の成功を懐かしく振り返り笑顔になっていく様子や、当時の映画製作の再現シーンは、人間は挫折しても必ず立ち上がれるという普遍的なテーマと共に監督の映画への愛が溢れていて、涙が止まらず。

スコセッシ監督の映画への愛と情熱は半端ではない。勉学で研鑽を積み、40年強に渡る映画製作の実績と多くの映画賞受賞に加えて、映画史の保存や後進の教育に尽力している。単なる有名な業界人ではない彼の活動に改めて頭が下がる思いだ。アカデミー賞など賞を決定する人たちも映画人。映画への愛に共鳴してこの映画に投票をするのは容易に想像できるし、授賞式を席巻するだろう。が、映画人だけでなく幅広い層に感動を与える秀作だ。(★★★★☆)


−アメリカの著名な映画情報・批評まとめサイト「ロッテン・トマト」では:94点

3月1日(木・映画の日)TOHOシネマズ有楽座ほか全国ロードショー(3D&2D同時公開)

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