ちょっとイイ話やイイ言葉。世の中にはポジティブな名言がそこらじゅうにあります。本屋でポジティブなことが綴られた書籍を見つけることは、そう難しいことではありません。では、逆にネガティブな名言が集められた書籍というものは存在するのでしょうか。

 『変身』『審判』などで有名な小説家、フランツ・カフカ。20世紀最大の作家と称されるカフカは、実は"超"のつくネガティブな人。誰よりも落ち込み、誰よりも弱音をはき、誰よりも前に進もうとしなかった人間なのです。

 カフカは何事にも成功せず、そして失敗からも学ばなかったとされています。生前は作家として認められることはなく、普通のサラリーマンとして仕事をしていました。結婚したいと思っても生涯独身、胃が弱くて不眠症。家族とは不仲で、何かと父親のせいにしていました。長編小説を書いても途中で行き詰まり、ほとんどが未完。満足できる作品を書き上げることができなかったため、すべて焼却するようにと遺言に残していました。

 そんなカフカの、人並み外れた後ろ向きな名言を見てみましょう。


 「将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。将来にむかってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。」(ラブレターの一節)


 「ぼくはいつだって、決してなまけ者ではなかったと思うのですが、何かしようにも、これまではやることがなかったのです。そして、生きがいを感じたことでは、非難され、けなされ、叩きのめされました。どこかに逃げだそうにも、それはぼくにとって、全力を尽くしても、とうてい達成できないことでした。」(父への手紙)


 「ぼくは、ぼくの知っている最も痩せた男です。体力はないし、夜寝る前にいつもの軽い体操をすると、たいてい軽く心臓が痛み、腹の筋肉がぴくぴくします。」(婚約者への手紙)


 「ちょっとした散歩をしただけで、ほとんど3日間というもの、疲れのために何もできませんでした。」(人妻への手紙)


 「ぼくは人生に必要な能力を、なにひとつ備えておらず、ただ人間的な弱みしか持っていない。」
(八つ折り判ノート)


 目を疑うようなネガティブ発言ばかりですが、これが作家・カフカの生身の言葉なのです。誰よりも弱い人だったカフカは、弱いがゆえに気づいたものも多かったのです。足腰がしっかりしている人は、道の歩きにくさを感じることはありません。腕の力が強い人は、荷物の重みを知ることがありません。カフカは虚弱。そんな繊細な感性が盛り込まれたカフカの作風は、後の作家たちに多くの影響を与えました。

 世の中には多くのポジティブな名言が溢れていますが、ネガティブな言葉を通して、ポジティブを知ることも、人生には必要なことなのかもしれません。





『「いちばんうまくできるのは、倒れたままでいること」作家・カフカの後ろ向き名言集』
 著者:
 出版社:飛鳥新社
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