今回は、チームを支えるベテラン選手にスポットを当てたいと思います。というのも、今シーズン、僕が「優勝するのでは?」と予想していたロサンゼルス・クリッパーズのチャンシー・ビラップス(35歳)が、先日アキレス腱を切って離脱してしまったからなんです。

 クリス・ポールの加入もさることながら、ビラップスを獲得したことが、僕がクリッパーズを優勝候補に挙げた最も大きな理由でした。クリス・ポール(26歳)やブレイク・グリフィン(22歳)など、クリッパーズには若くて優れた選手が大勢います。しかし彼らは、優勝はおろか、ファイナルの経験すらありません。そんな若いチームにとって、ビラップスの経験は、スタッツ(成績)以上の価値があると思うのです。

 デトロイト・ピストンズ時代に頂点を制し、ファイナルMVPにも輝いたビラップスの価値とは、『勝利の匂い』を嗅ぎつけられる能力です。選手とは面白いもので、コートに立っているときは、自分がどういうふうにプレイしているか、意外と分からないものなのです。特に若いときは、なおさらです。しかし、勝ち方を知っているベテラン選手は、どうプレイすれば勝利に結び付くのか、明確なイメージを持っています。全盛期に比べて身体は動かなくなっていても、「自分ならこう動く」というビジョンがある。それを若手に伝えることが、勝つために欠かせないということも分かっているのです。

 ビラップス不在の今のクリッパーズを見ていると、クリス・ポールは試合中、いろんな選手に話しかけて、彼の穴を一生懸命埋めようとしているように感じます。それは経験にもなるのですが、周囲に気を遣うばかりに、自分のプレイを見失う危険性もあるのです。僕はNBA選手ではないのですが、現役時代、同じような状況に陥った経験があります。だから、クリス・ポールの心境も分かるので、今はそれが非常に気がかりです。クリス・ポールの良さが、打ち消されなければいいのですが……。

 険しい道と分かっていても突っ込み、たとえ遠回りでも道を模索し、それを乗り越えた者だけが、『優勝』という栄冠を掴めるのです。よって、一時代を築いたチームには、必ず精神的支柱となっているベテランがいます。ロサンゼルス・レイカーズはデレック・フィッシャー(37歳)、ボストン・セルティックスはポール・ピアース(34歳)がそのポジションでしょう。エースのコービー・ブライアント(33歳)に意見を言えるフィッシャーがいなければ、レイカーズの黄金時代はなかったと思います。セルティックスもレイジョン・ロンド(25歳)がゲームを作っていますが、ここぞのシーンでは、ピアースがポイントガードの役割を担って『ビッグ3』の指揮を執っています。ともに「優勝するためには、今どうすればいいのか?」ということが分かっているベテランがいたから、NBAを制覇できたのだと思います。

 その点でも、昨年優勝したダラス・マーベリックスは、やっぱり安定しています。優勝経験者の多くが残っているのは、チームにとって相当な財産です。ジェイソン・キッド(38歳)、ダーク・ノビツキー(33歳)、ジェイソン・テリー(34歳)……。一歩一歩、前進していくことが優勝につながることを、全員が理解しています。急激にステップアップしようと試みて、自分たちのバスケットスタイルを壊そうとする選手もいません。開幕当初は「優勝は厳しいかな」と思っていたのですが、最近のゲーム巧者なシーンを見ると、やっぱりベテランぞろいのマブスは強い。

 あと、個人的に大好きなフェニックス・サンズのスティーブ・ナッシュ(38歳)も、ベテランらしい味わいを感じさせてくれる選手です。注目は、彼の『ドリブル』です。普通の選手はドリブルで進んでいるとき、自然と身体の前でボールをつくものですが、ナッシュは止まっているときも、前進しているときも、足もとで細かくドリブルをついているのです。つまり、ナッシュは身体の近くでドリブルすることで、常に『いつでもパスを出せる状態』を保っているのでしょう。