「尖閣諸島は日本の領土。領有権の問題はそもそも存在しない」。

 これが日本政府の公式見解。シンプルにして明快である。なのに、国は尖閣への上陸を厳しく制限している。

 そんななか沖縄県石垣市の市議ら4人が、今年1月3日、“強行上陸”をした。なぜ今、彼らはアクションを起こしたのか。単なる“右翼の暴走”なのか? 尖閣に一番近い島、石垣島に向かった。

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■上陸市議は地元でも賛否両論だった

 住所を告げただけなのに、石垣島のホテル前で拾ったタクシーの運転手はいきなり2年前の“事件”の話題を振ってきた。

「9月でしたね。島中が報道陣で賑(にぎ)わって、私らもちょっとしたバブル景気でしたよ。テレビ局なんかはチャーターで何日も借り上げてくれてね。私は中国人船長が釈放されて空港へ移送されるのを追跡するのに何人か乗せましたよ」

 2010年9月に起きた「尖閣諸島中国漁船衝突事件」のことであるが、案の定というか、その反応の速さに思わず苦笑した。告げた住所とは石垣市議会議員、仲間均(なかま・ひとし)の事務所所在地。電話でアポイントを取った際、仲間はこう言ったのだ。

「タクシーの運転手に言えば、すぐにわかりますよ。ああ、あのキ××イのところかと(笑)」

 確かに、街中で聞いた仲間への市民の評価はネガティブなものが多かった。一方で、この運転手のように仲間=(イコール)尖閣という認識が島では流通しているのも事実である。仲間はその衝突事件が起こる以前から、漁船による尖閣諸島上陸を何度も決行している。シケで断念したこともあるが、上陸14回、それによる書類送検13回、罰金刑1回。今年も仲間は1月3日、15回目の尖閣上陸を果たした。日本政府が上陸を認めない島に、市議である彼はなぜ、取り憑かれたように行き続けるのか。南の島で今、何が起こっているのか。

 そもそも、なぜ日本の領土である尖閣諸島に日本人が上陸を禁じられているのか。政府の見解は次のようなものである。

〈尖閣諸島は埼玉県在住の民間人が持つ私有地であり、それを国が年間約2400万円払って借り上げている。地権者は国の機関以外の者の上陸を認めていない〉

 では、上陸は無理でも、漁船で近寄ることができるかというと、これも「船舶安全法」という法律が足かせになる。すなわち「海岸から20海里(約37km)を漁船で越える場合、これに乗船できるのは漁業者のみ」というもので、石垣島から約170km離れた尖閣は当然、これに含まれる。

 それでも10年10月に石垣市議会は固定資産税の課税調査を目的に、全会一致で尖閣諸島への上陸を求める決議をし、国に要請した。しかし、翌11年1月7日、政府は「これまでも上陸しての調査をせずに課税してきている」などの理由を挙げ、上陸を認めない回答を出した。仲間は語る。

「尖閣諸島について、これまでの議員は口にはしても、誰も動こうとしなかった。私が平成6年(1994年)に市議に初当選した際の公約は『実際に尖閣に上陸して調査し、それを国に申し上げる』というものです。私にはどれだけ妨害されても公約を果たす責務がある。これまで国に対して石垣市の行政区域である尖閣諸島への固定資産税の調査、漁民のための避難港や無線基地の建設、生態系の保護を何度も要請してきました。しかし、動かない。動かないなら、手をこまねいているのではなく、自ら上陸して問題提起すれば動くだろうというのが、私の考えなのです」

 仲間は剛柔流の空手家でもあり、かつては本土の神奈川県川崎市で多くの門弟を指導していたこともある。手を見ると、まるでタコ焼きのような巨大な拳ダコが甲を覆っている。髭(ひげ)をたくわえた風貌は威圧感があるが、時折見せる笑い顔に独特の愛嬌があり、それが強面(こわもて)感を払拭している。