2012年度から3期連続で赤字を計上、または2014年度決算以降で単年度債務超過の場合はJリーグから追放――、こんな財務規定が定められた「クラブライセンス制度」が、今年から始まった。

 健全なチーム経営、およびリーグ運営を目的とする制度だが、言い換えればそれだけJクラブの財務状況が厳しいともいえる。2010年度決算で見ると、J1、J2の37クラブのうち、約半数の18クラブが赤字決算、10クラブが債務超過となっているのだ。

 だが、スポーツマネジメントが専門の帝京大学経済学部教授・大坪正則氏は、この経営難には「Jリーグの構造上の問題がある」と語る。

「もちろん各クラブの努力は必要ですが、リーグが構造改革しない限り、この負のスパイラルからは脱却できない」(大坪氏)

 この5年間、Jリーグはまったく成長していないと同氏は指摘する。確かに06年度のJ1営業収入総額は543億円。一方で、5年後の10年度は545億円と、(その間、多少の増減はあるが)収入はほぼ横ばい状態なのだ。

「Jリーグはテレビの放映権、商品化(グッズの販売)、スポンサーシップを一括管理しています。これは全国市場の権利で、スポーツ経営上、最も収益を挙げなければいけない部分。この権利を掌握しておきながらリーグ側は収益を挙げることができず、結果として各クラブに分け与える配分金もごくわずか。これではクラブ側が経営難に陥るのも致し方ない」(大坪氏)

 10年度の決算によると、「Jリーグ配分金」は平均で各クラブ総収入の10%程度。ちなみにアメリカのプロアメリカンフットボールリーグ・NFLの場合、この割合は平均約70%に上る。そのためNFLでは経営難に陥るチームがないどころか、戦力均衡を掲げるリーグ運営の根幹を成すシステムとしても機能している。

「とにかく、全国市場からの収入が10%というのは低すぎる。イングランドのプレミアリーグでも、同様に莫大な配分金がクラブに与えられるなど、全国市場からの収入がクラブ総収入の平均約75%にも上るんですよ。この差は大きい。そもそも、プレミアリーグが開幕したのは92年、Jリーグのわずか1年前。当時のリーグ全体の事業規模は、ほぼ同じでした。しかし、この20年でその格差は5倍に広がった。これでもJリーグのビジネスが問題ないといえますか?」(大坪氏)

 サッカーを核として地域にスポーツ文化を根ざそうという「Jリーグ百年構想」など、その理念は素晴らしい。だが悲しいことに、ビジネスとしてはまったく“実”が伴っていないのもまた事実だ。サッカー専門サイト『サポティスタ』の岡田康宏編集長も、リーグ全体の問題と指摘する。

「Jリーグは責任をクラブに押しつけるばかりで、リーグとして適切な営業努力をしてきたかというと大いに疑問です。現状の停滞をクラブだけでなんとかしろというのは無理がある。クラブ側の努力と同時に、リーグにも努力は必要でしょう」

 各クラブに経営改善を求めるだけで、自分たちは有効な手立てを打たないのであれば公平性を欠く。リーグ側も3年後という目標を設定し、増収を達成できない場合は「中の人」にご退場いただく……というのはどうだろう?

(取材・文/木場隆仁)

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