「NEWラブプラス」で追加されたイベントのひとつ、「読書月間」。図書委員である主人公は、推薦図書の推薦文を書くためにカノジョと一緒に一冊の本を読むことになる。強制ではないが、実際にその本を読みながら進めていくと、「カノジョと一緒に本を読み、内容について語り合う」というリアルな体験が得られるという。
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世間一般では「お義父さん」と言えば配偶者の父親のことを指すが、ゲーム業界で「お義父さん」と言えば、「ラブプラス」シリーズのプロデューサー・内田明理氏のことを指す。

内田氏とは昨年、「ラブプラスぴあ」の企画「内田明理へ100の質問!」ではじめてお会いしたのだが、なんというか、ゲーム内容にも負けないくらい「ご本人」が面白い方だったのをよく憶えている。(詳しくは「ラブプラスぴあ」でどうぞ!)

物腰はやわらかなのに、学生時代に話が及ぶと「あのころはやんちゃでしたねえ」と笑う。本人曰く、中学・高校時代を一言で表すなら「文学パンク」青年だったそうだ。好きな作家はサリンジャー(※1)で、一方ではバンド活動にも明け暮れた。「ゲームは?」と聞くと、「中学高校くらいになるとほとんどやらなくなっちゃいました」と言う。そのせいだからか、僕のまわりで「ラブプラス」にハマったのは、なぜかいわゆる「リア充」と呼ばれるような人たちばかりだった。

一見よくある恋愛ゲームに思える「ラブプラス」シリーズだが、その文脈は過去の恋愛ゲームとつながっているようで、実はつながっていない。普通、恋愛ゲームは女の子に告白されれば終わりだが、「ラブプラス」はそこからがようやく本番。DSの内蔵時計と連動し、プレイヤーと同じ時間・日付を過ごすカノジョたちと、「カノジョがいる生活」を楽しむ。画面の中のカノジョをタッチペンでつつくこともできるし、キスシーンではカノジョの唇に触れることさえできた。

「ときめきメモリアル」が誕生してからもうすぐ18年になるが、その間だれ一人として、そんなことをゲームにしようと試みた人はいなかった。一目見た瞬間から「なぜこんなゲームが突然出てきたんだろう?」とずっと不思議に思っていたのだが、内田氏と直接話してみて、ようやくその謎が解けた気がした。

「NEWラブプラス」発売にあたり、エキレビでもぜひ紹介しよう! という話になったとき、最初に思ったのが「みんなにもっと“お義父さん”について知ってほしい」だった。「ラブプラスぴあ」よりもっとマニアックな、“お義父さん”のバイオグラフィー。「NEWラブプラス」から入った人にも、「へえ、ゲーム業界にもこんな人がいるんだ」、「この人がカノジョたちのお義父さん……!」などと思いながら読んでいただければ幸いです。

※1 アメリカの小説家、J・D・サリンジャー。代表作の「ライ麦畑でつかまえて」は、落ちこぼれの若者を通じて欺瞞に満ちた社会や大人への不満をつづった青春小説のバイブル。ゲーム中では凛子の愛読書として登場


■本当に完成してるのか自分でもよくわからない

――「ラブプラス」シリーズってなんというか、ギャルゲーなのにギャルゲーっぽくないですよね。
内田 そうかもしれないですね。そもそも「ときめきメモリアル」と並ぶ新しい恋愛ゲームを作る、っていうのが出発点だったので、「ときメモ」を参考にしようとはあんまり思わなかった。
――告白された後をゲームにしよう、っていうのはどこから?
内田 恋愛ゲームって、告白されてキャラクターへの愛情がMAXになったところでいつも終わっちゃうじゃないですか。
――はいはい。
内田 そこからがいいとこなのに! ってずっと思ってたんです。
――でも、それって今まで誰もゲーム化してこなかった部分ですよね。
内田 はい。
――ちゃんとゲームになるのかとか、それってホントに面白いんだろうかとか……。
内田 いや、それはもう、発売するまでずっとそうでした。これ面白いよね! ってみんなでワーッて盛り上がる時もあれば、そのすぐ翌日、これホントに遊びとして成立してるの? みたいな波はずーっとあった。
――よく完成させられましたね。
内田 いやあ、本当に完成してるのか自分でもまだよくわかんなくて。
――それで3作品も。
内田 もちろん毎回、エンターテイメントとしてのピリオドは考えて提供してるつもりですけど、この遊びは一体どこへ行ったら完成なのかって、自分でもいまだに見えていないんですよね。


■経験の積み重ねがやがて宝物になる

――それでも一応、「ラブプラス」、「ラブプラス+」、それから「NEWラブプラス」と、着地点が見えないなりに3回ピリオドを打ってきたわけですよね。
内田 はい。
――その中で、自分で「これはうまくいったぞ!」みたいなものってありましたか。
内田 やっぱりシーンの積み重ねじゃないかな。膨大なシーンがあって、そこへお客さんごとの体験が加わることで、その人だけの思い出になる。それが積み重なっていった時に、きっと宝物のようなソフトになっていくと思うんです。
――経験の積み重ねが宝物になる!
内田 「どこでもデート」(※1)なんかはまさに、そういうコンセプトを体現した遊びですね。
――ああ、たしかに。
内田 オリジナルの思い出を作れる。
――最近のゲームはよく「消費されるのが早い」って言われますけど、そう考えると「ラブプラス」は逆ですよね。与えられた情報を消費するんじゃなく、ユーザーが自分でどんどん思い出を作って楽しむ。
内田 そうですね。つい最近も、PlayStation Vitaの某洋ゲーで遊んでたんですけど、あれだけ濃厚なコンテンツが、本当にアッと言う間に消費されていくじゃないですか。時代と言えば時代なんだろうけど、開発者としてはつい「ここのシーンって、3分くらいで通り過ぎちゃったけど一体どれだけの人間が関わってたんだろう……」とか考えて切なくなっちゃうんですよね。大きなお世話だろうけど(笑)。
――そこの違いなのかな、「ラブプラス」って技術的には最新のゲームなのに、遊んでる感覚としてはむしろ昔のゲームに近いところがある。
内田 ありますね。でもその分、ある意味でお客さんに求めてるハードルが高くなっちゃってるな、ってのは感じてます。想像力による補完ありきのゲームなので。
――ユーザー側が積極的に楽しもうと思わないと楽しくない。
内田 お客さんの積極性に頼ってる部分もあって、ホントはもっともっと、間口を広げていけたらとは思ってます。「NEWラブプラス」ではハードの表現力が上がったので、そこはだいぶ広げられたかなと。
――想像力で補完しなくてもいいと。
内田 そうそう。

※1 今作では3DSのカメラで風景を撮影することで、自分だけのデートコースを作ることができる。「ラブプラスぴあ」で紹介した「ハワイデート」のコースは、オフィシャルデートコースとしてダウンロード可能!


■ゲームの体験と、普段の生活の体験を混ぜてしまう

――あと今回、僕が気になってるのが「読書月間」(※1)!
内田 はいはい。
――これ、面白い仕掛けですよね。
内田 ありがとうございます。
――ゲームって普通は箱の中で完結しちゃってて、現実とは切り離されてる。でも「実在する本を読む」って行為が間に入ることで、ゲームが現実と地続きになっちゃう。
内田 何人くらいの方が実際に買って読んでくれるかわかんないですけどね(笑)。
――いやあ、これはもう、拡張現実ですよ。熱海デート(※2)もそうでしたけど。
内田 ゲームって実体験が伴わないとか、本当の経験にはならないとか、そういう話があるじゃないですか。だったらゲームの中の体験と、普段の生活とを混ぜちゃえと。そうすればゲーム内の体験が「実体験」になる。
――実体験プラスアルファですよ。カノジョがいる分。
内田 誰かと一緒に本や映画を見て、一緒に体験して、それについて語り合うのって、人生において最高に幸せな瞬間だと思うんですよね。これはぜひ取り入れたいと思っていた遊びだった。
――カノジョがいないとできない遊びですよね。
内田 現実にはなかなかうまくいかないですけどね。大体片方が「何言ってるんだろうコイツ」みたいなことになって(笑)。
――ありますあります。
内田 でもごくまれにバチッとはまって、二人で「これ面白いね!」ってなった時の幸福感。これはもう、他に比べるものがないくらい盛り上がる瞬間だと思うんです。

※1 ゲーム中のカノジョと、実在する本を一緒に読むイベント。3人の各カノジョごとに「お題」の本があり、講談社文庫から「ラブプラス」キャラ表紙版が実際に発売中
※2 「ラブプラス+」では、カノジョと一泊二日の熱海旅行に出かけるイベントがあり、熱海市とのタイアップも実施。実際にDSを持って熱海へ出かけるカレシが続出した


■「赤毛のアン」が人生の教科書

――3人の指定図書のうち、愛花の「赤毛のアン」は内田さんが強くプッシュしたんですよね。
内田 これはねえ、オッサンが言うと気持ち悪いですが、本当に大好きな作品で。
――どのへんがですか?
内田 一言で言えば「自分が娘に読ませたい作品」。アンの生き方を知ってると強くなれるし、きっと幸せになりやすくなる。男性が読んでも面白いですけど、特に女性は読まないと損だと思いますよ。
――読んだのはやっぱり「文学パンク」時代ですか。
内田 そうですね。ただ本当の良さがわかるようになったのは二十歳を過ぎてからですよ。児童文学の傑作って言われてますけど、ある程度青春の懊悩みたいなのを乗り越えてからでないとわからないようなところもあって。娘ができてからはもう、読んでて涙が止まらないです、ホントに(笑)。
――寧々さんは「魍魎の匣」ですけど、これも内田さんの推薦?
内田 寧々さんは、ミステリーというか、ホラーが好きだということで、ぜひ京極堂シリーズを読ませたいなと思って選びました。
――凛子は、辻村深月さんの「ぼくのメジャースプーン 」。
内田 辻村先生って若い女性の作家さんなんですが、凛子は作家志望である自分に、辻村先生の姿を重ねているんです。読んでいると、作家志望の方にはリアリティのあるコメントが出てきたりすると思いますよ。
――凛子はてっきりサリンジャー(※1)なのかと思ってました。
内田 いくら作家志望でも、自分がサリンジャーになろうとは思わないじゃないですか、普通(笑)。
――たしかに。
内田 この3冊をまだ読んだことがない人は幸せですよ。ぜひカノジョと一緒に読んで、体験してみてください。
(池谷勇人)

(2/21(火)更新の後編に続く)