本年度アカデミー賞最多11部門にノミネートされている「ヒューゴの不思議な発明 」のプロモーションの為、マーティン・スコセッシ監督が5年ぶりに来日。都内で記者会見を行った。ゲストには小雪が登壇し、出産後初めて公の場に姿を見せた。

1930年代のパリで、亡き父の形見の機械人形と共に一人で駅の時計台に暮らすヒューゴが、"映画"を通してジョルジュという老人と心を通わせるというこの映画。小雪が「ストーリー、美術、衣装、キャスティングなどすべて完璧。3Dもストーリーに奥行を持たせていて、夢の中にいるようだ。」と感想を述べると、スコセッシ監督は嬉しそうに「とても光栄です。映画の世界観に共感してくれてうれしい」とコメント。また「子供向けの映画になると思ったが、結果、誰もが楽しめる作品に仕上がった。子供の想像力や思考の中に入り込むように注力したけどね」とも加えた。

アカデミー賞に最多ノミネートされていることについては、自分にとってパーソナルな映画ゆえ、とてもうれしいそう。監督には、歳をとってから出来た12歳の娘がおり、彼女からいろいろと影響を受けたそうで、何かを創造したいという衝動を持った時の自分に戻ることができたという。「仕事をする上では成熟していなければいけないが、この純粋な創造への衝動は忘れてはいけないと思った」とのこと。そして「妻からは、一度でいいから娘が鑑賞できる映画を撮ってみたら?といわれた。」と、家族の秘話も教えてくれた。

この映画はスコセッシ監督初の3D作品だが、3Dには以前から強いこだわりがあったようだ。撮影時に俳優達をテストする時には、わざと手前側に立たせてみて、観客にとって俳優が手を伸ばすと届くようなかんじにしたかったのだそう。最初から3Dで撮影しようと設計していたそうで、その結果、パリの駅舎の巨大なセットや小さなほこり、舞う雪までも効果的に見せることができたという。映画製作に何か制約があるか?と聞かれると、「人材集めや資金調達は確かに大変だけれど、それが表現の自由の妨げになることはない」と述べた。3Dのような先端技術にも積極的で、「インターネットや新しい配信方法など、先端技術により誰にでも映画を作ることが可能になった」と指摘し、「状況を把握し、リスクをとることを覚悟して、映画を作ると決めたら、あとはただ実行に移すだけ」と、長い間ハリウッドの映画業界で活躍してきた監督ならではの意見を述べた。

監督はこの会見中何度も「個人的な思いが強い作品」と述べていたのだが、その個人的な思い出とはこういうことだ。「子供の頃は強い喘息持ちで、運動もダメ、植物や動物にも触ることもできずに孤独だった。労働者階級の家だから本を読むなんてことはせず、父がよく映画に連れていってくれた。西部劇に夢中になったよ。映画鑑賞を通して父との絆が生まれたんだ。妻やプロデューサーが指摘したんだけど、私はヒューゴとそういうところが似てるって。」そして映画を作るにあたり一貫して大切にしてきたことは、このような"映画への個人的なつながり"だという。「本物の監督というのは、どんな様式でもジャンルでも主題でも映画にすることができるけれど、自分はそういう意味では"監督"ではない。とにかく映画に対する個人的なつながりをとても重要視している」とし、子供のころに映画を鑑賞して夢中になった思い出や経験が原点なのだそう。「ヒューゴの不思議な発明」は確かにそういった監督の強い思いがたくさん詰まった映画だ。

スコセッシ監督は大学でも映画を勉強し、ハリウッドの頂点に君臨する巨匠でいながら、映画の保存や教育にもとても熱心な人。なので個人的に非常に尊敬している。今日の会見も映画史に頻出する固有名詞が多く、会見の内容を映画製作を目指す学生達が聴いたらどんなにか喜ぶだろうと思った。という学生のために、明日17日には、映画上映に加え、なんと監督自らが特別講座を開いてくれるのだという。ますますもって尊敬してしまう。「ヒューゴの不思議な発明」は3月1日(木/映画の日)より公開。