社長は“自分と向き合わなければいけない存在”

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 起業家支援の事業を展開し、『戦わない経営』『仕事は味方』をはじめ、様々な著作を執筆されてきた浜口隆則さんですが、新刊『社長の仕事』(かんき出版/刊)では社長とはどのような存在であるべきなのか、社長が存在する理由とは何かについて迫っています。起業されて以来、様々な苦難を乗り越えてきたからこそ至った浜口さんの境地は、経営者はもちろん多くの方も参考になることでしょう。
 今回のインタビューでは「社長同士での対談」と題し、株式会社オトバンク代表取締役社長の上田渉さんを招き、浜口さんとの対談形式でお話うかがってきました。

―前編:社長は自分と向き合わなければいけない―

上田渉さん(以下、上田)「この『社長の仕事』を拝読いたしまして、たくさんの金言を通して私自身、確認したことがたくさんあり大変参考になりました。その中で今回、浜口さんにお聞きしたいことがございました。
まず、率直な質問で恐縮なのですが、経営者に必要な素質についてどうお考えですか?」

浜口隆則さん(以下、浜口)「いきなり難しい質問ですね(笑)。やはり心・技・体が揃っていることは重要だと思いますが、素質というものをどう捉えるかによって回答が変わってくるのではないでしょうか。経営をする上で持って生まれた何かが必要かというと私はそうではないように思います」

上田「P・F・ドラッガーは真摯さが重要だと考えていましたし、浜口さんも本書の中で『雪が降っても、自分の責任』という境地に達することが大事だと述べられています。これらは素質と呼ぶにはちょっと違うかも知れませんが、先天的な性格であったりもするのかなと思うんですね」

浜口「基本的に私は、人間はものすごく可能性を秘めていますから、生まれ持った素質がないと何もできないというのではないと考えています。もちろん何兆も収益をあげるくらいの大企業を築き上げるためには、すごい才能に恵まれていないとできないのかも知れませんが、基本的に何億円というレベルの企業であれば、重要なことは才能ではなくて後天的な部分だと思いますね。『雪が降っても、自分の責任』はその後天的な資質をのばすための考え方の1つで、自分の身の回りで起こったことは自分の責任だと考えることがすべての出発点になるのではないかと思います」

上田「浜口さんがその境地に至ったエピソードを教えていただけますか?」

浜口「恥ずかしい話なのですが、最初に起業をしたとき、私の会社のモデル(レンタルオフィス)が新しかったこと、そして自分が未熟だったことなどからものすごく苦労したんです。そして、3年ほど厳しい時代が続き、追い込まれて、追い込まれて、追い込まれて初めてそういった境地に立ちました。
私が起業したのは長野だったのですが、長野は冬になると雪が積もるのでちゃんと雪かきをしないとオフィスにお客さまが来ないんです。当時は今みたいに月貸しだけでなく、時間貸しもしていたんですが、雪が降ると客足がかなり鈍くなってしまう。天候なので自分たちの責任じゃないし仕方がないことじゃないですか。でも、追い込まれていたとき、雪のせいにしてもいけないと考えて、雪が降ってもお客さまが来る方法を考えたほうがいいと気づいたんです。雪のせいにせずに、自分の責任にする。そこからは不思議と上手くいくようになって、その考えを大事にしてきました。
やはり自分の責任にすると自分が変わらないといけなくなりますからね。雪のせいにしておけば自分は悪くないわけじゃないですか」

上田「そうですよね」

浜口「でも、雪が降ってもお客さまが来ないのは自分の責任だと思えば、雪でもお客さまが来る方法を考えることができます。そう考えると、どんどん人は成長していけますよね。
また、そう考える人は言い訳をしなくなるんですよ。責任をなすりつけない。頼む側からしてみても、言い訳する人って使いづらいですし、大事な仕事を任せにくいですよね。
それは、おそらく社会全般においても同じことが言えて、自分の責任であると考えている人のところには仕事が集まってくるということに気づいたんですね。そこは経営者だけでなく、社員も同様です」

上田「社長のところに仕事がどんどん入ってくる状態はあまり良くないですよね。会社が大きくならないし、まわっていかない」

浜口「社長の考え方は社風にかなり影響しますから、社長が言い訳ばかりしているとそういう社員が多くなっていきますし、トップとしてどう考えるのかということは良い意味でも悪い意味でも重要ですね。だから、トップが自分の責任だと考えることによって全体に影響していって、周囲から“この会社、いいな”と思われるようになるんです」

上田「社員全体で一丸となって自分の責任で仕事をする。そうすると信頼が積みあがって、より良い仕事ができるようになるという好循環に入る、と。私は本書の中で『ナンバーワンを目指しているか?』という項目があって、非常にハッとさせられました。多くの方が忘れがちな部分だと思うのですが、ナンバーワンを目指す境地はどのように至ったのですか?」

浜口「よく顧客第一主義を標榜する会社がありますよね。でも、顧客第一主義と言っているにも関わらず、自社の商品よりも優れた商品が市場にあることを許していいのかと思うんです。つまり、本当にお客さまのことを考えたときに、最も良いことはナンバーワンの商品をお客さまが受け取る、もしくは利用できることですよね」

上田「そうですね」

浜口「それにも関わらず顧客第一主義って言葉を入れればいいんでしょ? と考えている経営者が結構いるんです。乱暴な言い方ですが、本当の顧客第一主義を追求するのであれば、その分野でナンバーワンを目指すべきだと思いますね」

上田「お客さまにとって、最も素晴らしい価値を提供する商品こそが…」

浜口「顧客第一主義を実践していることになりますね。そこまで出来ていない会社は多いですが、今現在出来ていなくていいんです。ただ、それを目指さないといけない」

上田「なるほど。では、話を変えて、経営者に求められている習慣についてお話をうかがいたいのですが、浜口さんはいかがですか?」

浜口「いろいろな習慣がありますが、自分と向き合い続けることはすごく大事だと思います。会社を伸ばすのも駄目にするのも経営者が中心になると思うのですが、自分自身がすごく影響を持っているからこそ、自分と対峙する習慣は必要不可欠だと思います。そうせずにいる経営者は成長しませんし、いずれ裸の王様になってしまうと思いますね」

上田「自分とどう向き合えばいいのですか?」

浜口「そのヒントを見つけてもらうためにこの本を執筆しました。自分と向き合うってとても難しいことですから、何か切り口となるものが必要です。本書もでもいいですし、自分を振り返るきっかけになるものを見つけてもらって、日々、自分を見つめなおすことが一番やりやすいと思います」

上田「確かに切り口が多くあると、その分、自分を見つめ直すポイントも増えていきますよね」

浜口「特に経営者は多面的に見ないといけませんからね。ただ、その切り口を見つけるのがなかなか難しい」

上田「切り口がないまま考えているとループしてしまったり、こじんまりとした結論になってしまったりしますよね」

浜口「そうなんですよね。それって自分の中で最適化しているだけですよね。部分最適化なんですよ。企業の経営に強い影響力を持っている以上、広い範囲で最適化しないといけませんよね」

上田「本書の中で、多くの経営者は忙しさから日常業務に逃げ込むと書かれている項目がありましたが、これは非常に耳の痛い言葉でしたね」

浜口「私自身も経験しましたし、今でもたまに逃げ込んでしまうことがあるので、偉そうに言えませんが(笑)」

上田「こうした自分自身を向き合うことって意外と抜けがちになるんですよね。では、そうした日常業務に追われている社長の皆さんにアドバイスはありますか?」

浜口「2つあります。1つ目のアドバイスは、先ほどの続きになりますが、とにかく1日5分でも10分でもいいからゆっくり会社や将来のことを考える時間を持つことですね。まずそういう時間を取ることが大事です。
2つ目のアドバイスは、現実的には難しいことだと思うのですが、社長の仕事の定義を根底から変えることです。日常業務をすることが社長の仕事だと考えていたら、それを全うしていて何が悪いという話になりますよね。おそらく、日常業務に入り込んでしまっているときは『これでいいんだ』と思い込んでいる部分があると思うので、こんなことをしていたら駄目だと思わないとなかなかやめることはできません。そのために、社長の仕事の定義を、基準を高くして持つということが大事になってくると思います」

上田「社長の中にも、忙しくしている社長もいれば、優雅にのんびりとしている社長もいるわけですよね。いろいろな社長がいると思うのですが、逆に社員の立場から見たとき、どういう風に見えるのが良いのでしょうか」

浜口「あまり暇そうにしていると共感は得られません(笑)。なので、忙しいふりはある程度したほうがいいと思いますよ(笑)。社長の仕事を突き詰めていくと、社員からは理解されないと思うんです。それは当然のことでもあるし、仕方がない部分でもあります。ただ、会社というチームとして組織を運営していく際に、それぞれの役割を全うするのが仕事だという考えを徹底していくと、社長は暇そうだと思われることはなくなると思いますね」

<中編:「社員には理解されない“社長の役割”とは?」に続く>



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