看板建築とスリバチ地形の関係

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看板建築はスリバチ地形のあるところによくみかけられる。ところでスリバチって?

スリバチ地形を楽しむ本が発売!

先日、スリバチ地形を楽しむ唯一無二の本「凹凸を楽しむ東京「スリバチ」地形散歩」が出版されました(著:皆川典久、発行:洋泉社)。
本コラムの筆者はみちくさ学会の講師だけでなく、「東京スリバチ学会」の会員でもあります。東京スリバチ学会の活動成果が会長自らの手で一冊の本にまとめられたことをうれしく思います。

ところで、スリバチ地形と看板建築には深いつながりがあります。今回は「祝!スリバチ本発売記念!」として、スリバチ学会のフィールドワーク(注:町歩きを格好良く表現した呼び方)を通じて分かった、看板建築とスリバチ地形の関係について、少しまとめてみたいと思います。


ところでスリバチ地形ってなんだ?

ところで、スリバチ地形、というのはなんでしょうか。すりこぎでゴマをごりごりとするアレを思い浮かべると、それと町歩きに何の関係があるのか疑問を持つ人も多いでしょう。

東京の町並み、特に山の手の町並みは、少し歩いてみると、実はスリバチ状の地形の連続であることが分かります。東京は、平らな地形ばかりではなく、坂や階段がたくさんあり、窪んだところと見晴らしのよい高台がいくつもあるのです。

例えば、筆者が住んでいる神楽坂界隈も、神田川と外濠にかけては標高10メートル程度ですが、5分も歩くと25メートル近い高台に上れます。そこには筑土八幡さまや赤城神社などの寺社があることも珍しくありません。
神楽坂の地形はアップダウンの連続で、初めて来た人を驚かせます。

こうした高低差のうち、特に凹んでいる地形、武蔵野台地をかつての川が削った地形を例えて「スリバチ」と呼んでいます。下りはじめは急でも、底の土地は平らになっていることも多く、V字の谷ではなくU字の谷になっていることが多いため、いかにも「スリバチ」な地形があるのが東京の特徴です。

これ以上詳しい説明は今回省略しますが、スリバチ地形散歩の書籍を手にとっていただくか、東京スリバチ学会のフィールドワーク(春に再開。HPで日程は案内されます)で一緒に歩いてみるとおわかりになると思います。

看板建築とスリバチの関係(地形的に)

さて、ここからは看板建築とスリバチの関係です。
スリバチ学会のフィールドワークに参加すると、看板建築をよくみかけます。なぜなら、看板建築は、かつての商店街に多く見受けられるからです。

かつての商店街は低い土地の川筋によく見られました。高い土地は武士の敷地で低い土地が商人地であったからです。また、商店街が水を必要とすることも関係しています。川の流れは低いところに向かっていきますから。

また、かつては商店街がたくさんありました。スーパーなどの大型店舗が駅前にどんと構えるようになった最近では考えられないことですが、駅から離れたところでも、地元の主婦が歩いていける範囲ごとに小さな商店街がたくさんあったのです。
たぶん、お値段は高く、品揃えも今より少なかったかもしれませんが、それでも主婦にとってはありがたい存在でした。その商店街の多くは、看板建築の様式をとる小さなお店で占められていたのです。

さらに、低い土地は再開発が遅れる傾向があります。広い道路沿いや高台の土地のほうが商業的価値が高いからです。おかげで古い商店街はそのままくねくねした細い道なりとセットで残されていることが多くあります。
こうした地域では建て替えのペースもゆっくりと進むため、関東大震災の頃から昭和初期(遅くとも戦後しばらくまで)に建てられた看板建築がそのまま残っていることも多いのです。

結果としてスリバチ地形には看板建築が多く残されています。川はふさがれて暗渠になっていたりしますし、商店街もさびれて、お店は閉められていることも多いのですが、スリバチ学会の町歩きに同行すると、驚くほどたくさんの看板建築をコレクションすることができます。

実はスリバチと看板建築はとても相性が良かったのです。
(書籍には、スリバチ地形ごとに町歩きの紹介がありますので、実際に歩いてみるといいでしょう)

看板建築とスリバチの関係(個人的に)

最後に個人的な「看板建築とスリバチの関係」を少し。

筆者は看板建築好きでしたが、コレクションして熱く語るほどではありませんでした。実はスリバチ学会の町歩きに参加するようになって、看板建築マニアの道に目覚めたのです。

書籍で看板建築について知っていても、実際にたくさんの看板建築を見つけてみるのとでは、全く世界が変わりました。
たくさんのコレクションを増やし、比較したり分類し、あるいは実際に歩いたときの周辺の様子などをイメージに重ね合わせていくことで、自分なりの「看板建築の楽しみ」が見えてきたと思います。

実際に歩いてみたことで、世界が広がる、というのは本当に驚きでした。30代になってから、こんなおもしろさに出会えるのか、と今でも意外に思うほどです(またいろんな方と知りあえた楽しみも大きいです)。

その点では皆川会長と東京スリバチ学会は、みちくさ学会看板建築講師としてのヤマサキの生みの親、ともいえます。
本人に面と向かってお礼するのは恥ずかしいので、ここでお礼を申し上げさせていただきます。

   ■   ■

誰でも実際に町を歩いてみることで、驚きや発見を得られることと思います。「ブラタモリ」や「ちい散歩」「ぶらり途中下車の旅」を見るだけでなく、実際に町を歩いてみてはいかがでしょうか。

そのとき、「スリバチ」も町歩きの選択肢として、ひとつ加えてみてはどうでしょうか? 「スリバチ本」を手に、高低差を楽しむ町歩きをはじめてみませんか?




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