サッカーJ2の湘南ベルマーレは、2000年以降初めて債務超過に陥ることが確実視されているが、7日付のスポーツニッポン紙によると、その超過額が1億円にも及ぶことが明らかになった。

 ベルマーレの真壁潔社長は6日、経営難と昨季14位に終わった成績不振の責任から、神奈川県平塚市内で行われた評議会に進退伺を提出。2時間半の激論の末、4月の株主総会までは続投することが決まったが、「(ユニホームの)胸もパンツもスポンサーがつかないのでは相当厳しい」と経営は予断を許さない状況となった。
 債務超過とは、債務者の負債総額が資産総額を超える状態。つまり、資産をすべて売却しても、負債を返済しきれない状況のことを指す。企業、相続財産の破産手続開始の原因でもある。

 ここで気になるのが、資産負債だ。資産は「個人・家計・企業・公共団体といった経済主体に帰属する金銭・土地・家屋・証券などの経済的価値の総称」で、負債は「経済主体にとって、返済などの必要がある経済的負担」のことを指している。

 そんな中、球団やクラブが所有する選手の保有権は、はたして資産なのか、負債なのか。

 当ブログでは過去に幾度と無く、「選手は、球団やクラブの『スタッフ』であると同時に、『商品』でもある」と紹介している。
 ファンやサポーターは、試合選手の常人離れしたプレーとともに、選手自身にも対価を払っている。さすがに選手に直接金銭を渡すことはないが、選手の背番号の入ったジャージータオルなどのグッズを購入し、球団やクラブの売上に貢献している。
 球団やクラブ、試合に興味がなくても、特定の選手見たさに球場やグラウンドに足を運ぶファンもいる。西鉄ライオンズ(現埼玉西武ライオンズ)時代の末期、親会社の西日本鉄道から新たに出向してきた球団社長が、コスト削減の一環として選手年俸を大幅に削減しようとしたことに対し、球団創設時から在籍している役員が、「ファンは選手見たさに球場に来る。あなたがグラウンドに立って、ファンを集められますか」と噛み付いたことは、前にも紹介した。
 そういう意味では、選手の保有権は、球団やクラブの資産と言える。

 だが、選手が負債になる危険性も、否定できない。球団やクラブは契約に基づいて選手に給料を支払うのだが、選手がそれに見合うパフォーマンスを果たせないと、その選手は球団やクラブの負債になる。グラウンドやピッチ上の戦力にもならないし、グッズも売れない。

 法律上の位置づけはわからないが、米マサチューセッツ州スミス・カレッジで教鞭をとっているアンドリュー・ジンバリスト教授は、自作の著「60億を投資できるMLBのからくり(邦題)」(ベースボール・マガジン社)で、球団やクラブが持つ選手の保有権について、こんな意見を述べている。

ある選手がチームに毎年1,000万ドルの価値をもたらすと仮定し、同時に1,000万ドルの年俸があるとすれば、その選手の資産価値はゼロということになる

 つまり、選手の資産価値は、その選手により球団に入る経済効果から、選手年俸を差し引いて考慮すべき、と指摘した。計算の結果がプラスならば、その選手は資産だし、マイナスなら負債になる。

 当ブログでは以前、「ダルビッシュに10億円の価値はあるのか」(http://blog.livedoor.jp/yuill/archives/51623240.html)という記事を掲載した。
 これは昨年10月、当時北海道日本ハムファイターズに在籍していたダルビッシュ有の引き止めに、大社啓二球団オーナーが10億円を用意したことについての記事だが、はたしてダルビッシュにファイターズが10億円もの大金を払う価値があったのかは、ダルビッシュのグラウド上の貢献度だけでは測れない。ダルビッシュの戦績、将来性は申し分ないが、球団経営の側面から冷静に判断する必要があった。

 一方、税理士の松尾里央氏は、選手をコストと定義している。「あの野球選手とゴルフ選手はどちらが儲かるのか?」(TAC出版)では、「プロ野球を会計的にとらえると、選手は『商品』ではなく『材料仕入れ』であり、選手をプレーさせることで行われるゲームそのものが『商品』(製品)になる」、「パン屋は小麦粉や牛乳、卵などの材料を仕入れて、それでパンという製品を作り、販売することで収入を得ている。これを野球に置き換えると、選手は小麦粉や牛乳、卵に、ゲームはパンに相当する」としている。

 はたして選手は資産なのか、負債なのか。有望な投資なのか、回収が難しいコストなのか。グラウンドの外から冷静に見る必要がある。

バックスクリーンの下で 〜For All of Baseball Supporters〜

野球は目の前のグラウンドの上だけの戦いではない。今も昔も、グラウンド内外で繰り広げられてきた。そんな野球を、ひもとく