ミステリ作家が描く“明日にも実現する”科学技術とは?

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 日本国内だけでも累計1200万部を超える売上を誇るパトリシア・コーンウェル氏の『検屍官』シリーズ待望の最新作『変死体(上・下)』(池田真紀子訳、講談社刊)が、昨年12月、2年ぶりに発表された。

 本作はタイトルの通り、心臓発作で死んだと思われていた一人の若い白人男性の“変死体”に、ある奇妙な現象が起きるところから始まる。死体安置所の冷蔵庫内で保管されていた死体の鼻と口から、大量に血液が流れ出ていたのだ。
 ケンブリッジ法病理学センター(CFC)局長のケイ・スカーペッタは、その事実を知り、青ざめる。死んだ肉体から大量に血液は出ない。つまり、生きている状態で死体安置所に入れてしまったということだ。彼が倒れた現場には一滴も血は流れていなかったし、死亡宣告されたときも血はなかった。腐敗庖ができたわけでもない。どうして?
 さらに血液がこぼれているのを発見した彼女の部下、CFC副局長のジャック・フィールディングは姿をくらましてしまい…。

 ケイ・スカーペッタの一人称で物語が進んでいく本シリーズ。
 もちろんシリーズの主要キャラクターであるマリーノ(元刑事で現在はCFC捜査主任)やベントン(ケイの夫)、ルーシー(ケイの姪で天才的頭脳を誇る)なども登場するが、本作ではそういった主要キャラクターとの心のすれ違いや、スカーペッタの過去などが複雑に絡み合い、スカーペッタの心情がダイレクトに伝わってくる。
 ほとんどの人が、時に大切な人を疑ってしまうことはあるだろうし、話せない過去を持ってもいるだろう。このシリーズを読んできたファンにとっては、スカーペッタたちの人間関係や登場人物の成長も読みどころの一つだ。

 また、本作のもう一つの読みどころは、最先端の科学技術がトリックとして至るところで使われていることだろう。コーンウェル氏はあとがきの部分で次のように述べる。

 この作品はフィクションではありますが、SF(サイエンスフィクション)ではありません。登場する最新の医学/法医学のプロセスやそのほかの科学技術、武器などは、いずれも明日にも実現しようとしているものばかりです。なかには、深い不安をかき立てるものもあるでしょう。それでも、決して遠い現実ではないのです。(下巻p349)

 本作では様々なロボットが登場する。その中でもコーンウェル氏の想像から生まれたものの一つが遺体回収運搬ロボット―“MORT”だ。
 変死した男の家のドアのすぐ手前にあったおかしな金属体。六本脚の虫のような不気味なフォルム。これは、軍が開発したロボットで、兵士支援用“パックボット”として、イラクに派遣されるために造られたが、実は用途はそれだけではない。死んだ兵士たちの回収ロボットだった。ルーシーはこれを「ガソリンで動く巨大なアリのロボット」と言う。
 こうしたロボットたちが、本作で起きる事件の鍵を握っているのだ。

 また、1992年のシリーズ開始当時にはなかった「iPhone」や「iPad」が捜査に使われ、「YouTube」が活用されるなど、限りなく現実に近く、そしてこれから私たちが経験する世界の中に、すでにスカーペッタたちはいる。そういった側面から本作を読んでいくのも良いのではないだろうか。
 翻訳ミステリの代表作である本シリーズの最新刊を、堪能して欲しい。
(新刊JP編集部)



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