岩波書店のコネ採用宣言が話題となっている。以前も書いたように、コネ採用なんて有名企業ならどこでもやっている話で、採る側が合理的だと思って採るわけだから好きにやらせておけばよい(アホボンばっかり採って倒産しても自業自得)。

ただ、それを大っぴらに公言するのはちょっと珍しい。中にはそれをもって同社を批判する向きもある。わざわざ「うちはコネしか採りません」宣言を出した同社の狙いとは何だろうか。

教養とコミュ力が分かり、採用側も楽になる

実は、採用プロセスを考えると、これは非常に合理的な選択である。


1.一定以上の教養が必須

当たり前の話だが、著者から推薦状を貰うには、ある程度の読書量が必須となる。単なる読書感想文レベルの会話ではなく、その分野を俯瞰的に眺められるだけの知識と、自己の見識があって、初めて推薦状を渡すという著者も多いはずだ。


2.コミュニケーション能力も必要

一方で、単なる読書バカや古典オタクでは役に立たない。実社会では知識を武器にして成果を上げることが重要だ。自力で関係者を探し出してコンタクトを取り、かつ推薦状を勝ち取るのは、かなりのコミュニケーション能力が必要だろう。


3.なんといっても、採用が楽ちんである

この不況下、有名企業には「とりあえずエントリーしてまわる」という学生が殺到し、採用担当者を悩ませている。中小企業とはいえ、名門・岩波出版も例外ではあるまい。

筆者の感覚で言うと、従業員数200人で採用数一ケタという企業なら、恐らく採用担当は一人でまわしているはず。彼にしてみれば、志望動機以前に「岩波新書もロクに読んだことのない人間」が大量に雪崩れ込んでくる現実に辟易しているものと思われる。

「著者から推薦状を貰えた人限定」

とすることで、そうした一見さんは一掃できるだろう。

これは、見込みのないエントリーをあらかじめ排除してあげるという点で、学生思いの戦略とも言える。

母集団の厳選化はこれからのトレンド

筆者は、クリック一つで大量のエントリーを可能とする現在の就活システムが、かえって採る側採られる側の双方を不幸にしている現実があると考えている。同社のような形で、母集団を厳選化する流れはこれから一つのトレンドになるだろう。

近年、大手企業が復活させているリクルーター制度も趣旨は同じだ。あれも一種のコネ入社だが、わざわざ「うちはコネないと無駄ですよ」と言ってくれる会社が悪くて、裏でこっそりリクルーター経由で内々定を出してる会社が黙認される理由は、筆者にはさっぱりわからない。

ところで、世の中には「悪いコネ採用」というのも存在する。権力のあるものがその地位を利用して押し付けるケースだ。独立行政法人の理事公募で過半数が官僚OBというケースは、その典型だろう。

岩波書店のコネ採用を調査するほど暇だったら、厚労省はこちらの調査をしてはどうか。

城 繁幸