このうち、第1の壁については、昨年5月9日、東京地裁で2度目の再審請求が棄却されている。松本死刑囚は東京高裁へ即時抗告したが、1度目の再審請求と同じく、2度目の抗告も高裁、そして最高裁で棄却される可能性が高い。

「そもそも、再審請求中の死刑執行停止については、事実上、法律の運用の問題として、検察官の胸先三寸に委ねられている。2度目の再審請求が地裁で棄却された今、検察官が麻原の死刑執行をためらう理由はありません」(検察関係者)

 同様に、第2の壁についても、昨年11月21日、遠藤誠一死刑囚に対する死刑判決が最高裁で確定し、一連のオウム裁判に歴史的な区切りがついた。そんな中、法務当局が頭を悩ませ続けてきたのが、「心神喪失」という第3の壁だった。

「麻原は東京拘置所に収監されているが、独房でオムツの中に糞尿を垂れ流したり、接見室でマスターベーションを始めたりと、廃人同然のありさま。法廷でも意味不明な言葉を口走るなど、外形的には心神喪失を強く疑わせる状況が続いています」(東京拘置所関係者)

 しかし、法務当局は一枚も二枚も上手だった。前出の法務省大幹部も、

「麻原の異常行動は、『心神喪失』によるものではなく、死刑逃れのための『詐病』にすぎません」

 こう指摘したうえで、次のように明かす。

「法務当局は麻原の逮捕、収監直後から、東京拘置所の刑務官らに命じて、麻原の詐病の証拠を収集させてきました。人間は24時間、365日、一分のスキもなく異常を装うことなどできはしない。控訴審前に行われた精神鑑定でも『裁判を受ける能力はある』との結果が出たように、証拠の収集から見えてきた結論も『麻原には法的責任能力あり』というものでした」

 このように、松本死刑囚の死刑執行を阻む壁は、昨年の11月末時点でほぼ突き崩されていた。ところが、それから1カ月後の大みそかの夜、冒頭で指摘した平田被告の電撃出頭によって、再び「第2の壁」が立ちはだかってきたのである。だが、法務当局の対応はきわめて迅速だった。

 死刑執行に関するさまざまな規定は、刑事訴訟法第475条に書かれている。冒頭で紹介した第2の壁を巡る規定も同条にあるが、実は、同条はきわめて弾力的に運用されている。同条に詳しい法務省幹部によれば、

「例えば、同条には『法務大臣は死刑確定から6カ月以内に執行を命じなければならない』旨の規定がある」