愚民思想が根強い人気を持つ理由

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今回は宮島理さんのブログ『フリーライター宮島理のプチ論壇』からご寄稿いただきました。
■愚民思想が根強い人気を持つ理由
野田政権の支持率がわずか4カ月で半減した。わずか4カ月で支持から不支持に回った人々は“愚民”なのだろうか。
世論調査によれば、野田政権の支持率が急落している。読売新聞社*1の調査では、就任時に65%もあった支持率が、今では37%にまで下落している。

1*:「内閣支持率37%に下落…岡田氏「評価」52%」2012年1月14日『YOMIURI ONLINE』 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20120114-OYT1T00766.htm

この激しいアップダウンをどう理解すればいいのだろうか。いわゆる愚民思想の立場に立てば、わずか4カ月で支持から不支持に回るような人々は“愚民”である。消費税増税に反対するといっても、野田政権は発足当初から増税路線を明確にしていた。それを「知らなかった」「説明不足だ」というのは、おのれの不勉強と無知を他人のせいにしているという意味で、正真正銘の“愚民”と言える。
しかし、政策も見ずに感情で(あるいは“様子見”という名の日和見で)支持するような“愚民”が、わが国の3分の1以上を占めているとは思えない。やはり、4カ月前には65%の人が増税路線を支持していたのであり、その後、不支持に回った人々は、(「歳出削減が足りない」「財政再建の道筋が見えない」など)各論について異議を唱えているだけで、今も増税路線支持という総論へのスタンスは揺らいでいないのだろう。
このように冷静に考えれば、愚民思想が入り込む余地はないはずである。ところが、愚民思想というのは根強く、「ほんと、日本人ってバカばっかりだよな」という具合に、愚民思想に賛同する人というのは結構存在する。

愚民思想が根強い人気を持っているのは、「人間は自分が批判の対象になっているとは想像もしないものである」という真理が背景にあるように思う。私がこの真理を実感したのは、綾小路きみまろのファンを分析するテレビ番組を見た時だ。
その番組では、「綾小路きみまろのファンは、毒舌ネタのことを他人事だと思っている」という驚くべき事実を告げていた。綾小路きみまろの毒舌ネタは、中高年の哀愁を笑い飛ばす自虐ネタであり、ファン(当然、中高年が多い)もまた、自分自身を笑い飛ばしているものだと私は思っていたのだが、実際はそうではなかった。
番組スタッフが綾小路きみまろの毒舌ネタを見せた後に感想を聞くと、多くのファンが「いるよね、こういう人(笑)」という反応を見せていた。ファンにとって、毒舌は自分自身に向けられたものではなく、あくまでも“自分以外のかわいそうな中高年”を綾小路きみまろと一緒になってイジッている感覚だったのだ。

このような鈍感力は、ベストセラーになった『バカの壁』にも通じる。私はこの本を読んだとき、「はいはい、どうせバカで話が通じなくてすみませんね」と、養老センセイに腹を立てたものだったが(笑)、どうも世間の反応は違ったらしい。
この本を読んだ人の多くは、「いるよね、こういう話の通じないバカ」と、溜飲(りゅういん)を下げていたというのを知って、私は軽くショックを受けた。「みんな、よほど自分に自信があるんだな」と半ばうらやましくなったと同時に、「こういう鈍感力を発揮することで、世の中は丸く収まっているんだな」と、アホみたいな当然の事実に気づかされたのだった。
愚民思想も、私なんかはついつい「はいはい、どうせ愚民で何も知らなくてすみませんね」といじけてしまい、「愚民なんて言わせないように勉強してやる」と(勉強が身につくかどうかは別として)単純に考えてしまうのだが、これだけ愚民思想が根強いところを見ると、それなりに多くの人々が自分自身の頭脳と階級性を過信しているらしい。少なくとも為政者は、愚民思想に逃げることなく、有権者の各論の違いをしっかりと考察して受け止めてほしいものである。

執筆: この記事は宮島理さんのブログ『フリーライター宮島理のプチ論壇』からご寄稿いただきました。