業績が悪化している国内証券最大手、野村ホールディングス(HD)が、12億ドル(約920億円)に及ぶコスト削減を進めるため、聖域なきリストラを加速している。

なかでも2008年に買収した旧リーマン・ブラザーズ(アジア、欧州事業)出身の幹部の退任が2012年明けから相次いで明らかになり、「リーマン切りも佳境に入った」と業界に衝撃を与えている。アナリストの間には「さすが野村。やるとなったら早い。これで業績は回復する」と評価する見方もあるが、「リーマン買収失敗の責任はどこへいったか」との声が業界から聞かれる。

「グローバル金融機関化」を進める責任者が更迭?

12年1月10日に野村HDが発表したのは、副社長でホールセール(法人向け業務)部門のトップのジャスジット・バタール氏の退任。「本人から辞任の申し出があり、了承した」(野村HD広報)との公式見解を信じる業界関係者は少なく、「詰め腹を切らされた」(証券大手中堅幹部)との見方が多い。

インド出身のバタール氏は英オックスフォード大卒で、1993年にリーマンに入社。リーマン破綻時にはアジア太平洋部門のトップにまで上り詰めた生粋の投資銀行マン。野村HD移籍後は野村HDの悲願である「グローバル金融機関化」を進める事実上の責任者として重用され、「相当の報酬」(幹部)も支払われたようだ。

バタール氏のポジションの後任は当面置かず、柴田拓美最高執行責任者(COO)がホールセール部門のトップを兼務する形をとる。

もう一人、野村HDを去る旧リーマン出身幹部は、野村HDのホールセール部門のもとで「グローバル・マーケッツ」と呼ばれ、国内外の機関投資家向けに債券や株式を売買する部署のトップのタルン・ジョットワニ専務。こちらも野村HD移籍後に重用された口だが、「グローバル・マーケッツ」は欧州債務危機と世界的な証券事業の規制強化の影響を最も受けた部署でもあった。

「投資銀行のイケイケビジネスモデルが通用しなくなった」

「グローバル・マーケッツ」はホールセール部門と債券、株式売買業務の間の中間管理職的な役割だが「もはや不要」として廃止が決まり、今後はホールセール部門が直接、債券や株式の売買を管理することになる。野村HDとしては不振の法人向け業務の再編でもある。ジョットワニ氏は債券売買業務の責任者でもあったが、そのポジションの後任には、ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)出身で2010年に野村HDに移籍し執行役員格のスティーブン・アシュレー氏が就く。こちらも「リーマン切りの象徴」と見られている。

野村HDは2008年秋、「リーマン・ショック」の名前の由来となった米証券大手リーマン・ブラザーズの破綻を受け、リーマンのアジア欧州事業を買収した。これで約8000人のリーマン社員が野村HDに入ったとされる。リーマンの北米事業は英国金融グループのバークレイズが引き継いだ。

しかし、結果的に野村HDのリーマン買収は裏目に出たとの見方は金融界に多い。「旧リーマンの人材流出は激しく8000人のうち3分の1は入れ替わった」(野村HD幹部)という面もあるが、いずれにせよ結果的に2011年9月中間連結決算の283億円の最終赤字は海外事業の低迷がもたらしたことに変わりない。「世界的な規制強化で昔のリーマンがイケイケどんどん的にやっていた投資銀行のビジネスモデルが通用しなくなった」(外資系アナリスト)ことも深刻で、「野村HDがリーマン買収をどう総括するか」を市場は注目している。