なぜ国会(立法府)に原発事故調査委員会を作らなければならなかったのか―塩崎議員インタビュー全文書き起こし

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国会内に史上始めてつくられた「国会原発事故調査委員会(国会事故調)」がいよいよ動き出しました。事故調査委員会には他に、政府側(お役所側)の「政府事故調査委員会・検証委員会」というものがあります。
今回ご紹介する、名前の頭に「国会」が付く方の事故調査委員会は民間人で構成されており、国民の立場に立った事故調査委員会として機能することが期待されています。かなり強い調査権限も与えられており、今後これまでわかってなかった事実も明らかになっていくでしょう。

早速、SPEEDIの情報が震災後速やかに米軍に提供されていた(日本国民には2ヶ月にわたって情報隠蔽をおこなっていました)という事実が国会事故調を通して改めて明らかにされました。

この国会事故調がなぜ必要となったのか。なぜ国会に事故調査委員会をつくらなければならなかったのかという点を中心に、塩崎恭久衆議院議員にお話をおききしました。塩崎議員は先日この国会事故調に関する書籍を出版しておられます。インタビュアーは硬派経済記者の磯山友幸さんです。


【インタビュー全文書き起こし】
磯山記者
東京電力福島第一原子力発電所の事故が非常に大きな問題でいまも続いているわけですけれども政府や東電の報告書とか中間報告は出ています。その中で国会に原発事故の調査委員会を作るという動きが昨年ありまして年末にできたということで先生は早速「『国会原発事故調査委員会』立法府からの挑戦状」という過激なタイトルの本を出版されてました。国会事故調がどういう経緯で出来たか書いてあるわけですけれども本日は「なぜ国会に原発事故調査委員会を作らなければいけないか?」「実際に国会内に事故調査委員会をつくるプロセスでどういう点に苦労されたか?」その辺りの裏話も含めてお話をいただければと思います。
そもそも何故国会に事故調が必要なのかというところが今ひとつ国民はまだわからないと思うのですがいかがでしょうか?

塩崎議員
日本に限らず国家というのはいろいろと失敗をするわけです。その失敗をどう総括をして教訓を引き出して次に生かしてゆくかということを日本はあまりやってこなかったんです。
裏返して見て失敗をしている主体はなにかというと国家、というわけではなく行政府か立法府か司法か、あるいは国民か、まあ国民だけで失敗するということはないですけれども、まあ国民が暴動を起こすなんてことはあるかもしれませんが――そうなるといままでの国家の失敗というのは基本的には政府の、行政府の失敗ということになります。これをきちんと検証をして反省をして、教訓を引き出して次に活かすということをやって来なかった。それは行政府が物事を仕切ってきている。今回の事故も実は政府がいろいろな対応に失敗した、政府が免許を与えて監督をしている先が失敗をしている。この両方の意味でやはりこれは政府の失敗なんです。そうなると政府が検証委員会をつくって自ら反省するのは結構ですけれどもそれが本当の真実を全部洗い出すかというとそうでないのではないかと普通は思うわけです。

失敗した当事者が自分で検証したところで100%やるわけではないだろうと。そうなるとここは行政府ではない立法府が国家としての失敗、政府としての失敗を徹底検証して政府が光を当てない部分にも光を当てて、そして光を当てる武器も与えて、つまり調査権、法律を与えなおかつ政府からも東電からも独立をして、政治もいろいろな思惑がありますから政治からも独立した、そういう委員会を作らなくてはならない。というのが基本的な発想です。

磯山記者
なるほど。お話を伺っていると私達が教科書で習ってきた三権分立、三権がそれぞれ牽制しあう仕組みにそもそもなっているのではないか? ともするとそれが機能していなかったのではないか? ということでしょうか。

塩崎議員
私も18年国会にいて初めてこういう試みをするというのはちょっと恥ずかしいところもあるわけですが今回国会はじめての、憲政史上初めての試みとして国会の中にこういうもの(事故調査委員会)を作ったわけです。

何故かというと行政がこの国をほとんど仕切ってきた。立法府のやることも行政府から立法府に入っていたりですね、そんなこともあるくらいに峻別がきちんとされていない、というのが日本の国家の実態だったわけです。

その実態があるがゆえにあらゆる所が行政に仕切られている。失敗しても行政が原因については検証したような顔をするけれども、たとえば薬害エイズの問題、これは裁判は起きているけれども政府の中できっちりしたものが行われたこともないし、立法府もやらなかった。バブル、だれが作ったんだ? だれがあそこまでやったんだという原因を突き詰めてゆくということも政府はやらなかったし立法府もやらなかった。それを今回初めて民間の専門家のみなさまに集まってもらって独立性を与えてやってもらう。

アメリカの人なんかと話すとinvestigation(インベスティゲーション 捜査)だけではなくてindependent(インディペンデント 独立)、investigation、committee(コミッティー 委員会)、“独立”“検証”“委員会”と。独立ということにみなさん敏感に反応して「コレが一番大事だよね!」といわれます。その独立性をもってやる三権分立の発想が実は今まで日本は一権支配でやってきたことが続いています。三権のうち国権の最高機関と言われている立法府が実はやっていなかった、アメリカなんかやっていますしイギリスもイラク戦争の時は有識者に検証してもらった、そういう委員会をやりました。

磯山記者
憲政史上初めて、明治以来初めてということですね?

塩崎議員
評価するのは民間の人たち、国会議員がやるのは当たり前ですから。そういう意味でのチェックは行政監視委員会があるわけですが民間の人にお願いすること、法律で調査権を与えてやるということは初めてです。

磯山記者
国会議員というのは野党がただ文句をいって罵詈雑言を浴びせているだけというのは特に菅さんの「菅やめろコール」でピークに達していたと思うのですが、そういう意味では国会がようやく自分たちの手足をもって政府がやっていることをチェックしてゆくという、ある意味道具立てができたということでしょうか?

塩崎議員
そうです。初めての試みなのでいろいろな問題があって苦労しているのです、委員の先生方も苦労していると思うのですが体制を整えていると、調査能力、法律の執行能力というものが必要というのがよくわかりました。

磯山記者
なるほど。独立性というのはなかなか難しいと思うのですが、政府にも事故調査委員会というものがありますね。政府の事故調査委員会というのは政府が任命した委員会なのでそもそも独立性が怪しいということでしょうか?

塩崎議員
いちおう彼らは完全に独立してやってますって言ってますがいまお話があったように任命されたのは菅総理なんです。菅総理が菅総理の失敗を検証してくださいって言っているようなものだからそれはそれで潔しとして評価して良いのですが本当にそれが膿を出し切るかというとそうではないだろうなとみんな思っている。世界もそう思っています。(検証結果を)待っているのは世界の人達で、国内だけではなく世界の人達も「何故こんなに酷い事故になってしまったのか?」「何故これだけ被害が広がるのを放置したのか?」ということの結論を待っているわけです。すべてはこの調査をきっちりやってその中から「じゃあどうするんだ?」というのを引き出さなくてはならない。いきなり「脱原発」とかいろんなこと言ってますがそれはちょっと科学的ではない、感情的になっていると思います。

国会原発事故調査委員会は何故必要だったのか

磯山記者
そうですね、アメリカはスリーマイル島の事故の時も独立した委員会を別途作ったということですけれども?

塩崎議員
あれはアメリカの原子力規制委員会NRCというところが自ら第三者委員会に頼んで調査しているんですけれどもこれ自体が失敗した。任命は行政でやっているんですけれども実は独立性があって議会が作ったものになっています。そこで政府の長である大統領がNRCが監督していた原子力発電所とNRCと政府、議会によって作った調査委員会を検証するために大統領命令でケメニーというダートマスという大学の学長さんにお願いして委員会を新たに12人で作ったということです。ここもまた独立性があって調査委員会の失敗、発電所の失敗を“行政府”がチェックするという格好になるわけです。

磯山記者
日本とは逆になっているわけですね?

塩崎議員
行政がやっているんですけれどもそのNRCを作ったのは議会で大統領(行政長)は内容に対しては口出しできないようになっています。それは公正取引委員会みたいなものです。

磯山記者
なるほど、それではもともと独立性のある“議会”がやっているところが失敗したのだからこれは大統領直轄のところで検証しましょうと。今の日本とは逆のパターンになっているわけですね?

塩崎議員
そうですね。

磯山記者
今回政府の方でも中間報告が出てきていますけれども、政府の委員会は独立性を保つといってもなかなか先程先生がおっしゃったように任命権者が総理だったり……事務局の問題もあるのでしょうか?

塩崎議員
事務局は全部霞が関の役人です。41人いるわけですがその後ろにはオール霞が関がついているわけです。
だから中間報告もいろいろな批判をされていますけれどもそもそも官邸や政治の意思決定がどうネガティブな影響を持たせたか、東電の責任についてもかなり甘い評価です。そういうところに我々はこの新しい国会の委員会に期待をして政府では“避けて通るところ”を光をあてて真実はどうなのかということを明らかにしたあとで政策をどうするかというのは国会議員が報告を受けて決めるということです。客観的に判断してそこからの政策提言をしてもらうということです。

磯山記者
今回出来た事故調査委員会はその独立性をかなり意識されており、政府から独立しているだけではなく国会議員の影響力も排除しようということでしょうか?

塩崎議員
そうです。直接接触を禁止するなんていうのは難しいので接触した場合はその内容を議長に報告してくださいということで事実上抑止力をもって接触を規制しています。事務局も委員の人が連れてくる人と委員長が用意する事務局ですからここには霞が関の役人は一人も入らない。(霞が関の役人は)ゼロです。あとは民間の人たちが委員会を担う、これも前代未聞のことです。

磯山記者
その場合霞が関の役人がいないということは機能するんですか? 段取りしたり会議のお膳立てをしたりというのは通常の委員会の常套手段と言ったら失礼ですけれども……。

塩崎議員
今回は初めての試みですが国会としても成功させないと威信にも関わる、今後の立法府と行政府の関係にも大きく影響を与える。ここでうまくゆかないということになれば行政府がタカをくくっていろんなことをまた自分たち(行政府)でやってしまうということになります。立法府のチェック機能がたりないということになりますから。だから事務局をどういう風にやるのかというのはおっしゃるように大変難しいことです。いま事務局の方々は苦労しています。毎晩深夜までやってもらってます。

磯山記者
委員長は黒川さんですよね。どうして黒川先生がよいということになったのでしょうか?

塩崎議員
我々が“委員長に求められる資質”“委員としてどういう分野に精通している人”が必要かというのを分けて人選しました。委員長については科学的な分析になれていらっしゃるかたということで今回黒川先生は医学、お医者様ですが安倍内閣のときも官邸でアドバイザーの役割をはたしていただいてます。そういった科学的分析ができる、もう一つは発信力がある、公正公平な判断ができる、国際的な視野をもっておられて海外への発信、世界中が固唾をのんで見ているわけですから(海外からの)「なんでこんなことになったんだ?」に答えられるような方ということです。

磯山記者
黒川先生は日本学術会議の会長さんでした。ダボス会議にも出られてて国際的にも非常に顔の広い先生ですよね?

塩崎議員
だから、今回アメリカやフランスなど海外からいろんな応援をもらっていましたけれどもそういったところへきっちりとお返しをするというのがこの調査活動だろうと思います。それぞれが原発政策がかかってますから。フランスと言えども原発を減らそうという人たちが、社会党ですかね?打ち出していると聞いていますから。

磯山記者
日本の事故の調査の結論と今後の対応が国際社会にも影響を与えるわけですね。
委員のメンバーを見ますと原発自体の専門家はあまり入っていない気がするのですがそこは意図的なのでしょうか?

塩崎議員
そこはですね、ケメニー委員会の時も12人のうち一人だけ原子力工学の人が来てあとは違う分野の専門家か行政とかビジネスとか弁護士とかそういう人達なんです。我々も10人の委員のうちまあせいぜい(原子力の専門家が)一人ぐらいだろうなということで進んでいました。今回は原子力工学の人は一人ということでむしろ科学的分析になれている人が必要なので他の分野で慣れている人たち、ノーベル賞の田中耕一さん含めお願いをしていますしスタッフともうひとつの仕組みとしては参与を置けるようになっています。ここには科学者で原子力工学の人が一人くらいはいたほうが良いのではないかということを考えています。近々に参与は任命されると思います。その参与の皆さんも自分のスタッフを連れてくるということで調査活動をみんなでやるということになっています。

磯山記者
委員の中には地元の方もいらっしゃるようですね?

塩崎議員
そうです、大熊町っていう(福島第一原子力発電所の)1号機から4号機までの原発がある町です。役場ごと会津若松に避難されてますけれどもその商工会の蜂須賀さんというお花屋さんの方に入ってもらっています。大変明快なお話をされる方で注目をされています。他の9人の委員には全くない、この方から聞かないとこの委員会はわからない、被災者。それも今までは原発に依存して生活してきた人たち、の商工の会長さんですからなかなか複雑な問題で伝え聞くところによると賠償、東電から頂いているのも累積でまだ10万円くらいしかもらっていない、とかですね、いろんな実態があるのでそういったことを踏まえた上で原因究明にあたってもらうということです。

磯山記者
一番つらい思いをされている現場に近い声を吸い上げるということは当たり前のことなんですけれどもなかなか国の仕組みでは今まで出来なかったという感じがしますね。

塩崎議員
政府の方(政府の事故調査委員会)は町長さんが一人入っていますけれども一般の女性の委員になってもらいましたから非常に迫力のある活動をしていただけるのではないかと思います。

磯山記者
国会の方にもどしますがこの委員会ができるまではかなり擦った揉んだがあったようですが最終的には全党一致で通ったということですね?

塩崎議員
はじめ通常国会の時には民主党の中にも強い反対があってなかなかうまく行かなくて結局安住さんが一筆「次期臨時国会で成案を得る」と書いて、この本にも書いてますけれども、そういった形でかろうじて野田さんにかわって議院運営委員会の筆頭理事に松野さんがカムバックして彼がかなり党内をまとめてくれてそのおかげで民主党が賛成に回って。もちろん修正を少し行い全党一致で、全会一致で通しました。委員についても全会一致で通りました。これは稀有なことです。

磯山記者
この本を読ませてもらいますと共産党や社民党の方の発言も刻々と書かれていて最初の段階ではかなり難色を示したのが急激に国会としてこういったことをまとまってやらなくてはいけない、非常に理解を深めてゆくプロセスが一番面白いなとおもって読んでいました。

塩崎議員
最初は共産党の皆さんは「えっ!?」って感じがあったのですが、何が本質的に達成されなくてはならないかというのを説明しているうちに「これはいいんではないか?」となり最後は皆さんが賛成してくれました。

磯山記者
そういう意味では国会のやりかた、国会のあり方を変えてゆこうという意思がある意味で結集されたということですね。

塩崎議員
民主党が前に日本版GAO法案というのを出したことがあります。行政(監視)を常時国会におく日本版GAO。

磯山記者
GAO(ガオ)ってなんですか?

塩崎議員
行政評価をするアメリカの組織です。それを民間人にやってもらうということです。

磯山記者
ジーエーオー、GAOと書くんですね。

塩崎議員
昔はGovernment Accounting Officeだったんですが今はGovernment Accountability Officeに変わってまして政府の説明責任を問うという形になっています。

磯山記者
財政のお金の問題だけではなくてAccountabilityなんで説明責任もということ?

塩崎議員
そうです、行政をチェックするということで実は(過去)廃案になっているんですが今回これ(国会のつくる事故調査委員会)が出来たので言ってみればそういうこと(GAOのようなこと)ができるよね、ということが証明されたわけです。ですから委員会に権限を与えて。前回は国政調査権よりもさらに強い権限を与えようとした法案だったんで「これは憲法違反ではないか?」といって潰れましたが今回は国政調査権は範囲内に納めて国政調査権未満の権限を民間の人たちに与えるということで整理をしました。だから肝心なときには国会議員が国政調査権を行使すればかなり行政をチェックできるかもしれない。そうすると常時スタッフがいなくてはならない。そういうスタッフはいままでいた事がない。霞が関の役人に負けないスタッフを置くと。この新しい日本の政治風土、文化を作ってゆく一つのきっかけになる、ということだと私は思います。

磯山記者
今回はこの事故の調査委員会ですから6ヶ月間で解散するんですよね?

塩崎議員
法律自体は一年で半年以内に調査結果を出してくださいということになっています。

磯山記者
そういう意味では機関が区切られた組織ですけれどもこの次にはもしこれが成功すれば権限を国会に持たせるというのが常態化してくる大きなきっかけになるかもしれませんね?

塩崎議員
そうです。あとは過半数の人が賛成すればできるようになったんではないかというのがブレイクスルーをつくったこの法律だと思います。

磯山記者
今回は全会一致なわけですからみんなが意見を擦り合わせられれば恒常的な国会の機能としてということなんですね?

塩崎議員
今回この法律については国会議員の多くの方々が行政を立法、国会がチェックするという仕組みを作ったと言う所にみなさん同意してくれているのだと思います。

磯山記者
そういう意味ではこの国会の事故調査委員会がどれだけ成果をあげるかということだと思いますがこの間も一回目、二回目の委員会が開かれてポツポツいろんな成果が出ているように思うのですが例えばSPEEDIですね、データがもともとあったのに国民に知らせなかったではないかと、非常に大きな問題になっているのですがこの間の委員会では文科省の人たちがデータはアメリカ軍には先に渡してたということを言っていてですね、何故国民には知らせず外国政府が知っていたのかと、ある意味突破口が開けて来ているように思うのですが?

塩崎議員
やはり縦割り行政になってまして原子力、放射能の規制については権限が文科省になっているという変な整理をやっている、今度は機能は一元化するということなのに原子力安全庁ではおかしい、第一に必ずしも放射能の規制、補償措置が移っていない。SPEEDIも全部が移っているのではなくて最後の使うところではない日常的なところは文科省に残るんです。こういういい加減な中途半端なことをやっているのが今の政府案と聞いているので我々が対案を出して三条委員会で独立性を持たせてやる、必要な機能は全部集める、そうやってパワフルな規制機関を設けようと思っています。

磯山記者
また三条委員会で独立性を高めた規制機関を作れというとこれまた霞が関が一番嫌がることですね。

塩崎議員
これからまた戦いをやらなきゃいけないと思っています。

磯山記者
また委員会が進んできたら経緯をお願いします。

塩崎議員
わかりました。

以上