「食道ガンは潜伏期間が5〜10年だなんて、臨床医ならそんなことは絶対に言いません。“潜伏期間”とは、病原体が感染してから体に症状がでるまでの期間のことで、普通、ウイルスや細菌のことを言うんです。東電は、被曝とは関係ないことを強調したいのでしょうが、あれは物理学をやっていた人のコメントですよ」(世田谷井上病院・井上毅一理事長)

 12月9日、東京電力は、福島第一原発で前線指揮を執り続け11月24日に体調不良で退いた吉田昌郎前所長が、食道ガンにかかっていることを公表したが、放射線医学総合研究所の見解として、「被曝による食道ガンの場合、5〜10年の潜伏期間を経るため、被曝とは無関係」と発表。同時に、吉田氏の被曝量を70ミリシーベルトとし、緊急作業時の特例被曝量250ミリシーベルトには達しないとした。

 あくまで被曝とガンの関係を否定した形だが、冒頭の井上氏のように、東電の発表内容自体を疑問視する声は多い。社会部記者も言う。
 「医師の診断をそのまま発表するのではなく、東電の“作文”であることは明らかです。被曝量についても食道以外にガンはないのかについても、本当の病状はあの発表ではわかりません」

 ただし、「被爆から食道ガンになったとはあまり考えられない」とも、井上理事長は語る。
 食道ガンは強いアルコールやタバコ、熱い物を食べて食道の粘膜を傷つけるとなりやすいという。吉田氏は愛煙家でも知られ、前線指揮を執ってきただけに強いストレスもあった。それが、ガン発症に繋がったとしても不思議ではない。

 いずれにしても、吉田氏の生還を祈るばかりだが、東電の発言の曖昧さは相変わらずのようだ。